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ブッツァーティ「タタール人の砂漠」 人生が抱える不条理な宿命

 1940年、イタリアが第二次世界大戦に参戦した頃に刊行された本が、万城目学氏のXの投稿をきっかけに再び注目を集めている。イタリア人作家ディーノ・ブッツァーティの長編『タタール人の砂漠』だ。戦後になって世界的な評価が高まり、66年には邦訳も刊行された。現在は岩波文庫で読むことができる。

 主人公は、辺境の砦(とりで)に配属された青年将校ジョヴァンニ・ドローゴ。俗世から隔てられた娯楽ひとつない砦に失望し、すぐに転属を願うが叶(かな)わない。北から襲来するというタタール人との栄誉ある戦いを期待するが、砂漠を眺めるだけの単調で孤独な日々が過ぎていくばかりで、砦に絡め取られるように晩年を迎える――。

 十数年前に初めて読んだときにも、描かれる焦燥や不安に強く共鳴したが、後半のドローゴの年齢近くになったいまでは、以前よりもずっと我が事として感じられ、恐怖さえ覚えた。なにしろ物語は後に進むほど、齢(よわい)を重ねるごとに時の流れを加速させてゆくのだ。執筆時はまだ三十代前半だったのに、どうしてこうも生涯にわたる心境の移ろいに肉薄できたのだろう。

 この長編以外にも、ブッツァーティは多くの短編で同様のテーマを描いている。「七階」では、軽い症状で病院の最上階に入院した語り手が、何かと理由をつけられてより病状の重い階下へと次々に移され、瀕死(ひんし)の病人たちのいる一階へ近づいていく。私の偏愛する「なにかが起こった」では、列車の乗客が窓の外になにかから逃げてくる大勢の人々を目にする。けれど列車はなにかが起きている方向へ猛烈な勢いで否応(いやおう)なく進んでいくのだ。ブッツァーティは、不条理かつ象徴的な舞台を用いて、誰もが人生で抱える宿命を、恐ろしくも滑稽に、胸に迫るほどの鮮明さで炙(あぶ)り出す。=朝日新聞2026年6月6日掲載

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 脇功訳、岩波文庫・1012円。13年4月刊、22刷6万部。3年前、万城目学さんの「これはおもしろい」との帯を付けてから売り上げが急増。「読んだら確かにおもしろいといった声がSNSで広がっています」と担当者。