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家族の原点と国際法の歴史探る フィリップ・サンズさん「ニュルンベルク合流」

 「この本は偶然の産物なのです。始まりは、なじみのない国からの一通の招待状でした」
 発信元は、ウクライナのリビウ大学。国際人権法の専門家でロンドン大教授でもあるサンズ氏に講演を依頼する手紙だった。リビウという地名にひかれた。亡くなった祖父レオンの故郷だったからだ。
 「祖父は自分の人生の最初の41年間について一切話をしませんでした」。ユダヤ人だった祖父の前半生に何があったのか。謎解きが始まった。
 祖父が生まれた1904年にオーストリア・ハンガリー帝国内の古都だったリビウは、ウクライナ、ポーランド、ユダヤの三つの民族が交わる地であり、歴史の激流にもまれ続けた。
 驚いたことにリビウは祖父の故郷というだけではなかった。国際法の重要な概念である「ジェノサイド(集団殺害)」と「人道に対する罪」を考えついた2人のユダヤ系法学者もまたこの地で学んでいたのだった。
 「家族の原点を探す旅が、『ジェノサイド』と『人道に対する罪』の起源を求める旅に重なりました。彼らが国際正義を求める理論を打ち出した背景には、多民族がぶつかり合うリビウでの原体験があったのです」
 そしてすべては、ナチスドイツの戦争指導者を裁いたニュルンベルク裁判へと流れ込む。
 そこにはもうひとり重要な人物がいた。ナチスの幹部、戦争中のポーランド総督フランクである。フランクはポーランドに残っていたユダヤ人の抹殺を命じた。祖父の家族も2人の法学者の家族も犠牲になった。
 フランクはニュルンベルク裁判で絞首刑になる。サンズ氏は取材の過程で息子にも会った。
 「彼は、『私はあらゆる死刑に反対です。ただし父の場合をのぞいて。父は死に値します』と語り、ポケットから一枚の写真を取り出しました」
 その写真が本の終わりに掲載されている。読者は、そこで息をのむことだろう。
 国際法の歴史を語りながら家族のドラマを描くこの異色のノンフィクションで、英ベイリー・ギフォード賞などを受賞。著者は今年1月、イングランド・ペンクラブ会長に就任した。(編集委員・三浦俊章)=朝日新聞2018年6月9日掲載