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新書ピックアップ(朝日新聞2018年6月9日掲載)

『遣唐使と外交神話』

 繁栄を誇る世界帝国へ苦難を越えて様々な文化を学びに行った遣唐使は、廃止後も異国へのロマンをかきたててきた。日本中世文学・東アジア比較説話を専門とする著者が、平安末期制作の「吉備大臣入唐絵巻」を中心に幻想の遣唐使像の変遷をたどる。伝説化された吉備真備、神通力をふるう阿倍仲麻呂らが登場する絵巻や説話には、異なる文化への違和感や恐れ、大国に対して揺れ動く優劣意識が浮かぶ。〈本と日本史〉シリーズの2巻。
 ★小峯和明著、集英社新書・799円

『もうひとつの脳』

 脳内の情報は、神経細胞「ニューロン」を介して電気によってやり取りされると考えられてきたが、ニューロンの梱包(こんぽう)材と見なされてきた残りの脳細胞「グリア」について、新たな発見が続く。グリアは、ニューロンとは異なる仕組みで動き、交信しているらしい。米国の神経科学者が科学史のエピソードを交え研究の先端を案内する。
 ★R・ダグラス・フィールズ著、小西史朗監訳・小松佳代子訳、ブルーバックス・1620円

『日本統治下の朝鮮』

 1910年から終戦まで続いた日本による植民地支配が朝鮮半島の経済に与えた影響について、開発経済研究者が統計資料から読み解く。農業から鉱工業への急速な移行や人々の生活水準の変化、戦時下の統制などを取り上げるほか、北部に集まっていた重化学工業やウラン鉱山などの「産業遺産」が、現在の北朝鮮の核開発につながったと指摘する。
 ★木村光彦著、中公新書・864円

『ルポ 児童相談所』

 児童虐待対応の最前線に立つ児童相談所は、虐待死事件の度に批判を浴びるが、予算も十分でなく、慢性的な人手不足の状態で、職員たちの奮闘にも限界がある。西日本のある児相で活動する児童福祉司に密着した朝日新聞デジタル連載「児相の現場から」に加筆、20年以上虐待の取材を続ける朝日新聞記者が生々しい実態を報告する。
 ★大久保真紀著、朝日新書・886円