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「不便益という発想」 不便さゆえの魅力、事例あげて説く

ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか?―不便益という発想 [著]川上浩司

 宅配ビジネスがサービスの見直しを迫られるなど、利便性を追い求めることの是非が問われている。
 そこで気になったのが本書のテーマである「不便益」だ。例えば「行きづらいからこそ行きたくなる秘湯」には不便さゆえの魅力やありがたみがある。このように、不便と思われがちなモノ・コトの中に益を見いだすのが不便益という考え方。不便の隠れた効用に光を当て、効率化に突き進む社会に疑問を投げかける。
 あえて段差を配したバリアアリーの高齢者施設(身体機能の低下を防ぐ)、通った道がかすれて消えてゆくカーナビ(そのほうが道を覚えられる)、閉めにくい引き戸や転びやすい庭のある幼稚園(体験からの学びを重視)などの事例に考えさせられた。
 不便益という視点を持つことが多様な発想につながると説く本書自体、決して便利なノウハウ本ではない。それゆえ主体的に思考を深められると捉えれば、これも不便の賜物(たまもの)か。長すぎるタイトルもしかり。読みづらいが「なんだこれは」と目を引くことは必定。少々理屈っぽい部分はあれど商品開発のヒントが随所に。「不便は手間だが役に立つ」という「逃げ恥」もどきの惹句(じゃっく)に座布団一枚!=朝日新聞2017年4月2日掲載