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髪型の変化 澤田瞳子

 最近、髪型が変わった。あくまで「変わった」であり、「変えた」と言えるような自主的な変化ではない。この半年あまり何かと忙しく、長らく肩より短かった髪が、もはや鎖骨にかかるほどまで伸びてしまったのだ。
 ただ、著作等に掲載される私の近影は、皆ショートヘアのものばかり。先日、似顔絵が趣味という方が、私の顔を描いて下さったのだが、それが髪の短い写真を参考になさったものだったので、現状の髪型を大変申し訳なく思った。
 これでも最初のうちは、どうにか美容院に行こうとしたのだ。しかしなぜか担当の美容師さんと都合が折り合わなかったり、私に急用が出来てしまったりということが相次ぎ、こんな長さになってしまった。しかもこの三月ほどは、襟元で一つ結びが出来るようになったのだから、もう駄目だ。「どうしても髪を切る!」という意気込みが失せ、「いつかは切るけど、まあ、すぐじゃなくてもいいか」とのんびり構えてしまっている。
 とはいえ、久々に髪を長くしてみると、手入れには時間はかかるし、これからの季節にはやはり暑い。やれやれ、まったく、面倒なことだ――と、ため息をついていると、短かった頃のことがふと思い出された。
 つい半年前の私は、自分のショートヘアに、「ちょっと手抜きをすると、すぐにはねてしまう」「二、三か月ごとに美容院に行くのが面倒くさい」と内心、ぼやいていた。それが自己都合で伸びっぱなしにした挙句、長い髪に文句を言うようになってしまうとは。人間とは勝手なものというが、まったく自己本位にもほどがある。
 よし、ここは一念発起してばっさり髪を切り、そんな己に喝を入れよう。しかしそうなると今度こそ、美容院の予約を取らねばならないが、長らくご無沙汰していた自堕落ぶりに、美容師さんはどれほどあきれ返るだろう。そんなことを想像するとついつい予約の電話が敬遠され、こうして私の髪は伸び続けるのである。=朝日新聞2018年6月11日掲載