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チームのために全力を出し切る姿に感動 サッカー・前園真聖さん

文:熊坂麻美、写真:下田直樹

渡辺航『弱虫ペダル』( 秋田書店、既刊56巻)

――『弱虫ペダル』は、いつから読み始めたんですか?

 1年くらい前からですね。テレビの企画で四国を自転車で1周するお遍路をやっていた時に、スタッフさんにすすめられたのがきっかけです。予想以上に面白くてびっくりしました。とにかくアツいんですよ。競技にかける情熱や仲間との友情、苦しい練習や挫折を乗り越えて得られる喜びや成長、切磋琢磨し合うライバルへのリスペクト……。そういうスポーツの良さが、この作品には全部つまっていると思います。

――前園さんはもともと自転車が好きだったんですよね?

 はい。昔トライアスロンをやっていたこともあって、ロードバイクなどには乗っていたんですが、『弱虫ペダル』のおかげで自転車をこぐ楽しさをあらためて発見できた感じがします。風を切って走るスピード感、景色がどんどん変わっていく楽しさは、サッカーでは得られない気持ちよさ。僕は坂を登るのも好きなんです。もちろんきついですけど、登り切った達成感がたまらなくて。

『弱虫ペダル』4巻、P26  ©渡辺航(秋田書店)2008
『弱虫ペダル』4巻、P26  ©渡辺航(秋田書店)2008

――坂と言えば、主人公の小野田坂道です。前園さんも坂道と同じクライマー(登りが得意な人)なんですね。

 いえいえ、僕はクライマーではないですけど(笑)、坂道が目をキラキラさせて楽しそうに自転車をこぐ姿は、すごくいいなあと思いますね。アニメオタクの彼が自転車競技と出合ってぐんぐん成長していくのは、もともとのポテンシャルもあるけど、自転車に夢中になっているってところが大きいですよね。どんな競技も「楽しい」や「好き」がベースにあるからこそ、うまくなれたり、苦しいことを乗り越えられたりするわけなので。僕もずっとサッカーが楽しかったですし、そういう気持ちの大切さを坂道が思い出させてくれた気がします。

――ほかに、お気に入りのキャラはいますか?

 坂道と同じ総北高校の鳴子章吉も好きです。目立ちたがり屋でイケイケだけど、人一倍友だち思いでイイ奴でしょ。あ、巻島裕介先輩もいいですよね。クールに見えるけど実はアツくて後輩思いで。壁にぶつかる坂道を「突破するっきゃないっショ」と独特の言い回しでいつも支えてくれる(笑)。

――仲間思いが共通していますね。

 そうですね。仲間を思う気持ちっていうのが、『弱虫ペダル』の重要な部分というか、大きな魅力なんだと思います。この作品は、自転車競技の中でもインターハイの団体戦を描いているから、どのチームも仲間のために、チームの勝利のために、時には自分を犠牲にして全力で戦う。その思いの強さや最後まであきらめない姿に、やっぱり感動するんですよね。読んでいて、たまに泣きそうになりますもん(笑)。

――自転車競技とサッカーで似ている部分はありますか?

 チームの誰かを生かす戦い方をするというのは、すごく似ていると思いますね。自転車の団体戦は、エースが勝負所で飛び出せるようにアシスト役がずっと風よけになったり、山ではクライマーが先頭を引っ張ったり、チームがサポートし合って戦いますけど、サッカーも状況に応じてお互いをカバーし合いながら、おとり的に逆サイドを走ってスペースをつくったり、ディフェンスを引き付けてエースのマークを薄くしたり、要所要所で「誰かを生かすプレー」が大切になるので。

 それこそ、日本代表がW杯ロシア大会で勝つためには「個の力」というより、チームがひとつになって周囲を生かしながら戦っていくことがポイントになると思います。あとは、坂道が「ここぞ」って時にケイデンス(ペダルの回転数)を上げてスピードアップするように、勝負所でぐっとスプリントして、スピードやメリハリで相手を崩していけるといいですよね。

――日本代表の西野朗監督は、前園さんが活躍されたアトランタ五輪の代表チームも率いていました。どんな監督でしたか?

 選手を型にはめるのではなく、それぞれの長所を生かすシステムを構築していく監督です。選手の意見をちゃんと聞いてくれる人だから、とことん議論して、僕らは結束力の強いチームになれたし、それがブラジル戦の勝利にもつながった。代表チームは限られた期間で一致団結するために、コミュニケーションが非常に重要です。そういう意味で、いまの日本代表も西野監督になって、チーム内でよく話すようになっているし、あきらかに雰囲気が明るくなっていると思います。

1996年3月、アトランタ五輪予選より ©朝日新聞社
1996年3月、アトランタ五輪予選より ©朝日新聞社

――前回までのW杯と比べると、少し盛り上がりに欠けるのかなという気もします。

 そういう空気は当然選手たちも感じていて、でもだからこそ、「やってやろう」と思っているはずだし、過剰に自信を持つより危機感を持って戦う方が、本番で化けるというか、日本には合っていると僕は思うんですよね。

 まずはとにかく初戦のコロンビア戦です。コロンビアは決勝トーナメントにいって当たり前のチームだから、日本戦にピークを合わせてこない可能性がある。そこにスキとチャンスが生まれるかもしれません。何があるかわからないのがサッカー。日本は初戦にピークを合わせて120%出し切るつもりでいってほしい。勝ち点が取れれば、一気に空気は変わりますよ。

『弱虫ペダル』17巻、P26-27 ©渡辺航(秋田書店)2008
『弱虫ペダル』17巻、P26-27 ©渡辺航(秋田書店)2008

――『弱虫ペダル』のように、最後まであきらめない戦いを、と。

 本当にそう。もちろん勝利も大事ですけど、やっぱりファンは気持ちがこもったプレーが見たいんです。2011年のドイツW杯でなでしこが優勝した時の激闘は、勝敗以前に心に伝わってくるものがあった。そういう見ている人がアツくなるような、完全燃焼の戦いをしてほしいですね。彼らなら絶対にできるはずです。

――ポイントになる選手をあげるなら。

 海外と代表の経験値が高い本田圭佑選手ですかね。「ベテランが多い」っていう批判もありますけど、プレッシャーをはねのける術を持ち、世界との戦い方を知るベテランの力は日本代表には必要だと思います。1勝もできなかった前回大会のリベンジという意味でも、ベテラン勢の底力に期待しています。

――日本戦以外の見どころを教えてください。

 メッシ(アルゼンチン)やクリスティアノ・ロナルド(ポルトガル)といったスターもそうだし、今大会のブラジルは最強チームだと思うので、そのあたりですね。ブラジルは毎年タレント揃いだけど、それぞれが自分の技術におぼれていないのが今年のチームの特徴です。エースのネイマールも、攻撃だけじゃなくてディフェンスもやるし、よく走るし。天才たちがチームのために体を張ってプレーする、最強のブラジルは必見ですよ!