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完璧以外のやりかたで 柴崎友香

 乾燥きざみ揚げ、というのを買ってみた。味もついていて、みそ汁や煮物にそのまま入れるだけ。常温保存可能。めちゃめちゃ便利。作った人にありがとう。わたしは菜っ葉類に揚げを入れてたいたのさえあればごはんはそれでいいので、思い立ったときに少しだけでも作れるのはほんとうに助かる。
 先日テレビで、子育て中の家族の夫が朝ごはんを作る映像に出汁(だし)の素を使うのがいまひとつというようなナレーションが入っていたらしい。出汁の素でいいやん。わたしは、調理実習以外で出汁を取ったことはない。小学生のときから家族の食事を作ってきたが、それゆえいかに手間を省くかは最重要点だった。
 一つの鍋に順番に入れていけばできるもの、レシピが覚えられる範囲のものしか作らない。とエッセイに書いたら、「女なのに臆面もなく手抜きを語り」という感想を見かけた。書いたものについてどう思われてもいいが、性別など属性に対してのことは釈然としない。手作りだと騙(だま)して買ってきたものだったとかなら「臆面もなく」だが、工程を減らすのは生活の工夫だ。
 今の世の中は、手間暇(てまひま)かけることに重きが置かれすぎだと思う。その人の生活や事情の中で何が最善かよりどれだけ手をかけて苦労したかだけが「愛情」「努力」として評価される。完璧以外は「手抜き」「偽物」と言われる、あるいは言われるんじゃないかと不安に思う。
 以前、働く若い女性にインタビューしていたとき「趣味がないのが悩み」という人がいた。しかし、パンを焼くのが好きで月に二回は作るという。じゅうぶん趣味やん、と言ったのだが、パン焼き機だし趣味とは名乗れない、とのこと。機械を使うなんてダメ、月二回なんて、と言われたことがあったのかもしれない。
 それで今いちばん思うのは、あれこれ言う人が手伝ってくれるわけでなし、言う通りにしてもさらに上を求められるだけでお駄賃くれるわけでなし、きりもないし、自分のやり方でいいやん、です。=朝日新聞2018年6月18日掲載