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恋した相手は「猿人」でした!(第91回)

 『ガラスの仮面』(美内すずえ)と同じく1976年に始まった少女マンガ界の現役最長作品『王家の紋章』(細川智栄子あんど芙~みん)が、ここに来て怒濤(どとう)の盛り上がりを見せている。

 4月に第63巻、5月に文庫の第25巻、6月に第64巻と、まさかの3カ月連続刊行。「プリンセス」での連載も再開され、6月号では久しぶりに表紙を飾った。なんといっても連載開始から42年! 当初、小学生だった読者はアラフィフに、主人公のキャロルと同じ高校生だった読者など還暦近い年齢になっていることを思うと感慨深い。

 考古学が好きなアメリカ人の少女キャロルが3000年前の古代エジプトにタイムスリップ。現代人ならではの科学や歴史の知識から「ナイルの娘」とあがめられ、あろうことか同年代のイケメン少年王メンフィスと結婚して王妃になってしまう。実に壮大な物語であり、最初の3~4巻までしっかり読んでおけば、途中で何十巻すっ飛ばしてもあまり気にならない読者に優しいストーリーもいい。

 その後、タイムスリップ少女マンガはいくつも発表されたが、中でもぶっちぎりのインパクトを放っているのが昨年から「ララ」で連載している『原始人彼氏』(北福佳猫)だろう。「原始人みたいにワイルドな少年」が出てくるのかと思ったら、ヒーローは文字通りの原始人。それもホモ・サピエンスですらなく、250万年前に生息していた「猿人」なんだからビックリだ!

 神米美大(かみごめみと)は農家に生まれた女子高生。多くのイケメンからアプローチされる美少女だが、美大の理想は「大地のように力強くてたくましい人」であり、ルックスだけの軟弱な草食系男子にはまったく興味が持てずにいた。そんなある日、「理想の人に会わせてやろう」という農業の女神スピカによって、250万年前の世界にタイムスリップ。一頭のガルヒ猿人と運命的な出会いをするのだった――。

 ヤンキーにしてもオネエにしても、少女マンガのヒロインが恋に落ちる相手は何を置いてもイケメンであることが絶対条件だった。最近その常識をくつがえしたのがゴリラ系の猛男(たけお)が活躍する『俺物語!!』(河原和音・アルコ)だったが、ガルヒはゴリラ系どころか、外見も知能もほとんどゴリラと変わらない猿人。もちろん言葉も通じず、文字通りの「美女と野獣」になっている。まさに“少女マンガの革命”と呼べる異色作だろう。

 第2巻では思いがけない展開に驚かされたが、どうやら全3巻であっさり終わらせる予定らしい。はたして時空も種(しゅ)も超えた恋の行方は?