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「戦後沖縄と米軍基地」書評 固定化を進めた奇妙な連携

評者: 中島岳志 / 朝⽇新聞掲載:2013年01月06日
戦後沖縄と米軍基地 「受容」と「拒絶」のはざまで 1945〜1972年 著者:平良 好利 出版社:法政大学出版局 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784588321290
発売⽇: 2012/10/01
サイズ: 22cm/420p

戦後沖縄と米軍基地―「受容」と「拒絶」のはざまで [著]平良好利

 沖縄の米軍基地問題には、多様な主体が絡まる。立場の異なる住民、沖縄の政治リーダー、日本政府、そしてアメリカ。複数の思惑が交錯する中、米軍基地は残存し、現在に至る。問題の枠組みが構造化したのは27年間のアメリカ統治時代。この時期にいかなる交渉が繰り広げられ、基地の固定化が進んだのか。
 本書が主に追及するのは、沖縄の政治リーダーの行動である。1950年代に住民が直面したのは、土地代金の問題だった。米軍は既存の基地継続と共に、敷地の拡張を進めたが、その土地の多くは私有地や市町村有地だった。米軍は代金一括払いによる買い上げを計画したが、住民は猛反発。反対運動が激化する。
 ここで沖縄の政治リーダーがとった行動は、基地撤退要求ではなく、一括払い政策の廃止と賃貸料の増額の訴えだった。彼らの基本的スタンスは基地の整理縮小であって、全面撤去ではなかった。沖縄の基地関連収入は日本復帰間際になっても約45%を占め、基地なしでは住民の生活が立ち行かない状況に陥っていた。
 政治リーダーの要求は、日米安保継続を基調とする日本政府の思惑と適合的だった。本土の政治家・官僚は沖縄の声を巧みに代弁し、日本復帰に向けた対米交渉を進めた。
 これは、結果的にアメリカにとっても好都合だった。沖縄の施政権返還に応じることで、アメリカは懸案だった経済的・行政的負担から解放された。しかも、基地は従来通り存続。以後、住民の要求は日本政府に向けられるようになった。基地の固定化は、沖縄側と日本政府、そしてアメリカとの奇妙な連携によって進んでいったのである。
 「受容」と「拒絶」のはざまで葛藤し、利害を調整していった沖縄のリーダーたち。著者は、その懊悩(おうのう)の声を丁寧に追い、歴史のパズルを埋めていく。その静謐(せいひつ)かつ情熱的な筆致に、胸を打たれた。
    ◇
 法政大学出版局・5985円/たいら・よしとし 72年生まれ。法政大学非常勤講師。