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「黄金の少年、エメラルドの少女」書評 社会のひずみ映し、魂に触れる

評者: 小野正嗣 / 朝⽇新聞掲載:2012年09月16日
黄金の少年、エメラルドの少女 (河出文庫) 著者:イーユン・リー 出版社:河出書房新社 ジャンル:一般

ISBN: 9784309464183
発売⽇: 2016/02/08
サイズ: 15cm/325p

黄金の少年、エメラルドの少女 [著]イーユン・リー

 本書は、村上春樹も受賞したフランク・オコナー国際短編賞の一回目の受賞者であり、いまや国際的評価の高い中国系英語作家イーユン・リーの短編集である。英語圏では英語を母語としない作家たちが素晴らしい仕事を達成しているが、なかでもこの女性作家の活躍はめざましい。
 収められた短編の舞台は現代中国である。複雑な事情を抱えた両親に養子として育てられ、人に心を開くことのできない独身女性が過去を回想する「優しさ」。子供を失ったインテリの在米中国人夫妻が、母国の農村で代理母を〈買い〉、再び子供を得ようとする「獄」。「女店主」では、死刑囚の夫との子供を残したいと処刑前の子づくりの権利を申し立てた若い女性を保護する商店主が、新聞記者の取材を受ける。「彼みたいな男」では、老母と二人暮らしの独身の元美術教師が、共産党員の父親の不倫を激しく告発する実の娘のブログに、自らの辛い過去を思い出し、この父親に会いに行く。
 各編からは、一人っ子政策の歪(ゆが)み、人権問題、爆発的な経済成長と増大する社会的経済的格差。過熱するネット社会といった、昨今各種メディアでよく報じられている中国社会の姿が垣間見えてくる。
 前作の『千年の祈り』もこれがデビュー作かと嘆息するほどの出来栄えだった。だが、欧米の読者を意識してか、あるいはアメリカで英語で書くことで、本国では書きにくい主題により自由に向き合えるからか、やや批判精神の立ち勝る眼差(まなざ)しで中国が見つめられていたように思う。
 なるほど、優れた小説はどうしても、それが書き・書かれる社会の関心事やひずみを映し出すものだ。だが、そうした問題が、登場人物たちのそばに確かに感じられつつも、固有の苦悩と喜びを抱えた魂の動き、つまり一人一人の人間に触れることを妨げていないところに本書の身震いするほどの完成度はある。
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 篠森ゆりこ訳、河出書房新社・1995円/Yiyun Li 72年、北京生まれ。作家。現在は米オークランドに暮らす。