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高校野球100回目の夏 激闘支える光と影の真実

昨年の第99回大会で優勝して喜ぶ花咲徳栄高の選手たち。今年、栄冠はどの高校に輝くのか

 夏の風物詩、高校野球と甲子園にまつわるノンフィクションや「一〇〇年史」関連図書を読んでみた。以下は印象深く感じた三冊。
 スポーツ・ノンフィクションの扉を開けた一人、山際淳司氏が故人となって久しい。短編集『スローカーブを、もう一球』を久々に読み返したが、いまなお引き込む力をもっている。
 冒頭の一編は「八月のカクテル光線」。一九七九年夏の甲子園大会。石川・星稜対和歌山・箕島戦。延長十八回、箕島の勝利で終わった激闘を描いている。決着がつくまで、追いつ追われつ、両軍ともに勝機とピンチは幾度もあった。
 たとえば十六回裏、一点リードされた箕島の攻撃は二アウト・ランナーなし。打者は一塁ファウルグラウンドにポーンとフライを打ち上げた。星稜の一塁手が落下点に入る。万事休す……。が、一塁手は右足を人工芝にとられ、転倒する。直後、打者の打った球はレフトスタンドへ飛び込んだ。

ゲーム外の試練

 もし……。著者は、一球をめぐるさまざまな「イフ」を発掘しながら、野球というゲームの不思議さ、奥深い味わいを伝えている。
 この試合は三回戦第四試合。両校の選手たちは、延長戦に入ってグラウンドに灯(とも)ったカクテル光線が美しかったことを一様に憶(おぼ)えている。
 《ドラマの内実を支えていたのは、あるいは光なのかもしれない。八月のカクテル光線。それが青春の光を導き出した……》
 中村計氏の『勝ち過ぎた監督』は、二〇〇〇年代半ば、夏の大会で優勝、優勝、準優勝と無類の強さを発揮した北海道・駒大苫小牧高の香田誉士史(こうだよしふみ)監督を描いた人物ノンフィクション。
 野球には北国のハンディがつきまとうが、社会科教員の青年監督は、“雪上練習”を行うなど、厳しく、工夫力に富んでいた。甲子園に来ると一転、手綱を緩めてニコニコ顔となる。
 栄冠はまた試練を伴う。部内で起きた体罰や喫煙問題などが報じられ、選手と監督、監督と学校当局間の離反も生じた。飛行機に乗れない神経症に苦しむ監督の日々も記されている。
 著者は長年、高校野球の取材にかかわってきた。その蓄積があって光と影が交差する人物像も描き得たのだろう。昨年度の講談社ノンフィクション賞の受賞作でもある。

大会歌に名残す

 ♯雲はわき 光あふれて
  天たかく 純白のたま
  きょうぞ飛ぶ
 大会歌「栄冠は君に輝く」は、耳に親しい。
 戦後三年目の第三十回大会。全国中等学校優勝野球大会は全国高等学校野球選手権大会となる。記念に大会歌が公募され、石川県在住、加賀道子作が入選した。作曲は古関裕而(こせきゆうじ)。長くそう思われてきたが、本当の作詞者は道子の夫、加賀大介だった。
 手束仁(てづかじん)著の『ああ栄冠は君に輝く』は、その間の事情を記しつつ、歌詞に込めた大介の思いを解きほぐしている。
 少年期、怪我(けが)から片足を失った大介は、地元で短歌会や劇団を主宰しつつ、「文学賞を獲(と)って東京に出る」という夢をもち続けた。歌詞の応募に、当時婚約者だった道子の名を拝借したのは「賞金稼ぎ」と思われたくない故だった。
 第五十回大会を前に、朝日の記者が道子のもとを訪れたさい、「実は……」と真実を打ち明けられる。道子にとっても偽りを装い続けることは苦痛であったからだ。
 大介は「いちがいもん(頑固者)」。後年、娘とテレビ観戦しつつ大会歌が流れる日もあったが、作者だと口にすることはなかった。享年五十八。文学において名を成すことはなかったが、違う形で名を残した。