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「食べる」行為について改めて考える 「男たちが綴った食の記録を味わう」本

 毎日欠かさずに行っているけれど、普段なかなか意識することのない「食べる」という行為。ここでは極限の地の料理人や戦後を代表する思想家、著名なジャーナリストなど、男性の書き手が「食」について綴った本を紹介します。「食べる」という行為について、新たな気づきが得られることでしょう。

  1. 面白南極料理人(新潮文庫)
  2. 開店休業(幻冬舎文庫)
  3. もの食う人びと(角川文庫)
  4. 御馳走帖(中公文庫)
  5. 世界ぐるっと朝食紀行(新潮文庫)

(1)面白南極料理人
 南極観測隊ドーム基地越冬隊員が記した南極日記です。出発前には30トンを超える食材の調達があり、いざマイナス80度の世界へ。食材の積み忘れあり、勝手な献立要求あり、ドタバタな日々が続きます。極限の状況でも「食」を楽しんでいる隊員たちの姿を眺めていると、いつもの食事をもっと楽しみたくなってくるはずです。

(2)開店休業
 「戦後思想界の巨人」とも称されていた吉本隆明が、晩年に執筆した食生活のエッセイです。『食を巡る物語は、そのまま家族の物語だ』という長女で漫画家のハルノ宵子が、著者の没後に追想を書き下ろしています。ともに生活するということは、ともに食事をするということ。家族の営みについて、「食」を通して深く考えさせられます。

(3)もの食う人びと
 作家でジャーナリストの辺見庸が世界のさまざまな国をめぐり、その土地で食べられているものを記録したルポルタージュです。紛争や貧困などで食べること自体が難しい国々での食べ物の記憶は、そのまま悲劇の記憶となって著者の心と胃袋に刻まれていきます。「食べる」という行為そのものについて、目を開かれる思いがします。

(4)御馳走帖
 戦後の貧しい時代、けして順風とはいえない人生のなかで、親しい人をもてなす心を尽くしたお膳の魅力が活き活きと綴られたエッセイです。食いしん坊であるということが、人生そのものを豊かにする。思い出の味が次々とよみがえる健啖家・内田百間の文章から、食べることの幸せを再認識させられます。

(5)世界ぐるっと朝食紀行
 写真家・西川治が旅した、さまざまな国のホテルや食堂、または市場の片隅で食べた朝食の記憶を写真と文章でまとめた一冊です。一番鶏の鳴くころに始まる仕込みや、その土地固有の食べ物。どこにいても一日の営みは、朝食を食べるという行為から始まる。そんな当たり前のことに気づかされるでしょう。