子供こそが大切と気づかされた
真打ちになった2000年、移動中に読む本を探しに立ち寄った書店で、この本と出会いました。イラストがかわいくて、すごく温かい感じがした。
母親と小学3年生のさきちゃんの何げない日常を描いた短編集です。当たり前の暮らしの中に幸せがあると、読んでいて体にすっと入ってきました。
お母さんが歌う場面があります。「月のー砂漠を さーばさばと さーばのーみそ煮が ゆーきました」。そして、さきちゃんに言うのです。「さきが大きくなって、台所で、さばのみそ煮を作る時、今日のことを思い出すかな、って思ったの」
その頃、3歳の長男と0歳の長女がいましたが、僕は「子供よりも仕事」と考えていた。でも、それは違うぞと思った。子供こそ、かけがえのないものだと気づいたのです。
朝、子供が寝ている時間に仕事に行く際、新聞の折り込み広告の裏に「いってくるよ。かぜをひかないようにね」と書きました。夜帰ると、その横に「おやすみなさい」とある。そんなささいなことが、親の成長にも子供の成長にも大切。今は、子供と接していて心が震えた瞬間を日記に書いています。
この本には12の物語がつづられていますが、著者の北村薫さんは「その先の13話、14話……は自分で作っていきなさい」とおっしゃっている気がします。(聞き手・西秀治、写真・飯塚悟)=朝日新聞2018年8月4日掲載