西日本豪雨により被災された方々へ、心より、お見舞い申し上げます。
テレビ等で復旧作業の様子を見ていると、2004年10月のことを思い出します。台風23号の影響により、淡路島内の河川が氾濫(はんらん)し、我が家はどうにか床下浸水でとどまったものの、旦那さんの実家は約1・5メートルの床上浸水となりました。夕方から夜にかけての出来事で、水が引いた翌朝から、片付けの手伝いに行きました。
下水の混ざった泥水に漬かった一階の家財道具は、洗って乾かせば使えるという状態ではなく、仏壇を含めて、ほとんど処分しなければならず、解体して、畳が流されて穴だらけになった床に足を取られないようにしながら、外へ運び出しました。
家の中と同時進行で、外に堆積(たいせき)した泥も撤去しなければなりません。自衛隊の車が回収にまわってくるのに合わせて、泥をスコップでゴミ袋に入れ、道路端まで運ぶことになりました。知り合いの方も手伝いに来てくれ、近所の方々とも協力し合いながらの作業となりました。泥は重く、悪臭が漂っていましたが、誰一人、グチをこぼす人はなく、逆に、力強い言葉が聞こえてきました。
「(阪神・淡路大)震災で壊れてもおかしくなかったものが、10年間、長持ちしてくれたと思おう」
そんな時、誰かがつけていたラジオから、同時期に起きていた新潟県中越地震で土砂に埋もれていた車から2歳の男の子が救助された、というニュースが流れてきました。「よかった」と皆が口々に喜び合い、涙を流している人もいました。
強く、優しく――。
災害など起こらないのが一番いい。しかし、避けられないこともある。その上で、災害を乗り越えた先にはきっとそれまでに得られなかったものがあるはずだと信じています。東京に引っ越さないのかと訊(き)かれても、笑って首を横に振れるのは、あの時感じたことが大きく影響しているのかもしれません。=朝日新聞2018年8月6日掲載
編集部一押し!
-
文芸時評 深い後悔、大きな許し もがいて歩いて、自分と再会 都甲幸治〈朝日新聞文芸時評25年11月〉 都甲幸治
-
-
インタビュー とあるアラ子さん「ブスなんて言わないで」完結記念インタビュー ルッキズムと向き合い深まった思考 横井周子
-
-
えほん新定番 内田有美さんの絵本「おせち」 アーサー・ビナードさんの英訳版も刊行 新年を寿ぐ料理に込められた祈りを感じて 澤田聡子
-
谷原書店 【谷原店長のオススメ】馬場正尊「あしたの風景を探しに」 建物と街の未来を考えるヒントに満ちている 谷原章介
-
オーサー・ビジット 教室編 自分で考えて選ぶ力、日々の勉強と読書から 小説家・藤岡陽子さん@百枝小学校(大分) 中津海麻子
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第32回) 堀江敏幸「二月のつぎに七月が」の語りの技法が持つ可能性 鴻巣友季子
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版