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恐怖は謎解きの後で 「ミステリー作家たちのぞっとする」本

 夏と言えば怖い話。「好書好日」では、「ぞっとする」をキーワードに怪奇幻想味あふれる小説を折りにふれて紹介しています。でも、怖い話はホラー作家の専売特許ではありません。江戸川乱歩を始めとするミステリー作家たちも怪奇風味の作品を多くものしています。そこで乱歩が創設した日本推理作家協会賞を受けた作家たちの作品から「ぞっとする」話を集めてみました。恐怖の競演をお楽しみください。

  1. 儚い羊たちの祝宴(新潮文庫)
  2. 頼子のために(講談社文庫)
  3. おともだち できた?(講談社)
  4. 真珠郎(角川文庫)
  5. 独白するユニバーサル横メルカトル(光文社文庫)

(1)儚い羊たちの祝宴
 「満願」(2014年)でミステリーランキング1位を総なめにした米澤穂信による「暗黒ミステリー」。良家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」にまつわる5つの邪悪な事件が描かれます。いずれも最後に「え、そんな理由で」と思ってしまうねじくれた犯行動機が明かされますが、とりわけ掉尾を飾る表題作は、タイトルの意味がわかった瞬間、背筋に嫌な汗が流れます。

(2)頼子のために
 物語は17歳の娘を殺された父親が復讐を果たすまでの手記から始まります。しかし、手記を読んだ名探偵・法月綸太郎は違和感を持ち、真相解明に乗り出します。いわくありげな関係者が現れるたび、新たな事実が明らかになり、法月は手記に隠された意味を読み解くのですが、ラスト数ページに驚くべき真相が用意されています。人間の業の深さに慄然とさせられる一冊です。

(3)おともだち できた?
 『蜜蜂と遠雷』で直木賞を受けた恩田陸のデビュー作は学園ホラー『六番目の小夜子』でした。そんな彼女が書いた怪談絵本。ある日、一人の少女が見知らぬ町に引っ越してきます。少女は両親や近所の人から声をかけられます「おともだち できた?」。少女は答えます「うん、できたよ」……って、えっ? 読み返すたびに怖さが増幅するトラウマ本。むしろ子どもには読ませない方がいいかもしれません。

(4)真珠郎
 金田一耕助で知られる横溝正史が生み出したもう一人の名探偵・由利麟太郎が連続殺人事件の謎に挑む耽美ミステリー。娼家を湖畔に移築した豪邸、首のない死体など、戦前作品らしいおどろおどろしさに満ちていますが、最も怖いのは事件の遠因となる発想です。ある登場人物が社会への復讐心に燃え、美少年・真珠郎に幼少期から悪の英才教育を施します。「人間のペスト菌」として世に放つため……。

(5)独白するユニバーサル横メルカトル
 鬼才・平山夢明が推理作家協会賞を受けた表題作は、まんま地図が語り手。「彼」が仕えたタクシー運転手とその息子の鬼畜にも劣る行為が妙にかしこまった口調でつづられます。「このミステリーがすごい!」ランキング1位も射止めた短編集なのですが、謎解き要素はほぼありません。徹頭徹尾、エロ・グロ・バイオレンス。正直なところ、心臓が弱い人にはお薦めできない本。随所にちりばめられたナンセンス風味が怖さをいや増しています。