耳目を引く説をぶち上げているわけではない。後部圧力隔壁の修理ミス。『日航機123便墜落 最後の証言』(堀越豊裕著、平凡社新書・972円)は、日本の航空事故調査委員会が結論づけたこの事故原因が、相当確からしいと詰めていく本である。決して地味ではない。結論を導く筆致は、推理小説を読むような面白さがある。
類書と決定的に違うのは、事故調査に携わった関係者や別の墜落事故のパイロットら多くの米国人の証言があることだろう。著者は共同通信の米国特派員だった2014年から、日米の100人以上に取材。「あれから30年がたった」と重い口を割り、新事実を明らかにする人もいる。
誠実な取材で出した答えは、従前の通り。撃墜説など異論を唱える人の話も盛り込み、骨太のノンフィクションに仕上げた。「プロの取材者の意地を見せたかった」と話すベテラン記者の面目躍如だ。
墜落事故から今月で33年。根拠の薄い言説すら飛び交ういまこそ、手に取る価値がある。(木村尚貴)=朝日新聞2018年8月25日掲載
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