1. HOME
  2. コラム
  3. 選書往還
  4. ページをめくる手が止まらない幻想世界 「架空の国を旅する」本

ページをめくる手が止まらない幻想世界 「架空の国を旅する」本

 この世界とは何もかもが違う、架空の国を旅できるのが読書の醍醐味の一つです。そして「幻想文学」とは夢物語ではなくどこか硬質で深みがある世界観なので、最初はあり得ないと思っていても、いつの間にか入り込んでしまっています。読書を途中でやめられなくなることが必至なので、お休みの日にどっぷり浸かってみるのがオススメです。

  1. はてしない物語(ミヒャエル・エンデ、岩波書店)
  2. 黄金時代(ミハル・アイヴァス、河出書房新社)
  3. 見えない都市(イタロ・カルヴィーノ、河出文庫)
  4. 指輪物語(J.R.R.トールキン、評論社文庫)
  5. テレヴィジョン・シティ(長野まゆみ、河出文庫)

(1)はてしない物語
 少年が夢中になって読んでいる本の中の国は、「虚無」に侵されて壊滅状態になっていました。そこで少年は本の中に入り込み、その国を救おうと動き出します。その国とはなんなのか、「虚無」とはなんなのか、本の中の国と現実の関係性が見えてくるにつれて、読書や物語そのものについて考えさせられるファンタジーです。

(2)黄金時代
 著者のミハル・アイヴァスは、現代のチェコを代表する幻想文学の作家です。詩人でも哲学者でもある彼の物語は、本が重要なモチーフになっているので、本好きなら親近感が湧いてくるでしょう。そして本書は、架空の島についての報告書として書かれた物語で、その世界観の強固さ、イメージの巧みさに圧倒されてしまいます。

(3)見えない都市
 イタリア文学を代表する作家イタロ・カルヴィーノが手掛けた、幻想文学の傑作です。マルコ・ポーロがフビライ・ハンに、今まで旅をしてきた話を聞かせるという体裁で、架空の都市の様子が描かれています。連作短編として読むこともできるので、手に取りやすい一冊といえるでしょう。

(4)指輪物語
 日本では映画「ロード・オブ・ザ・リング」の大ヒットの印象が先に立ちますが、トールキンの書いた原作『指輪物語』は、ファンタジーの古典として英語圏では最も有名で、支持されている物語です。魔法や妖精と人間が共存する世界で、新たな国がおこる超大作。何もかも忘れて、没頭して読むことができます。

(5)テレヴィジョン・シティ
 舞台となるのは、テレヴィジョンに囲まれた世界の一切の無駄を排除したビルディングです。そして主人公は、父母の住む碧い星への憧れを募らせながら暮らしています。すべてをコンピューターに管理された近未来SFでもあるこの小説は、冷たくほの暗く切ない雰囲気で彩られていて、読んでいると感受性が鋭かった思春期の頃に戻ったような感覚に浸れます。