お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭(まさやす)さん(39)が、エッセー『ナナメの夕暮れ』(文芸春秋)を出した。40歳を前に心境の変化をつづった本作を「ずっと続けてきた自分探しの集大成」という。
「自意識過剰」を自認する。学ランの第一ボタンをなぜ留めなきゃならないのか、その理由を探してしまう。気取っていると思われたくなくて、スターバックスで「グランデ(大)」が頼めない――。
5年前に出したエッセー『社会人大学人見知り学部 卒業見込』には、社会への違和感や劣等感が渦巻いていた。今回は、2015年から約3年間の日常をつづってみた。30代後半。なぜこんなに生きづらいのかを考え、答えを手繰り寄せてゆく軌跡が描かれる。
そうして悟ったことがある。「他人への否定的な目線は自分に返ってきて、自分の人生の楽しみ方を奪ってしまう」ということだ。きっかけは、「俗人のスポーツ」と馬鹿にしてきたゴルフ。「実際にやってみると、イメージと全然違って楽しかった。周囲の目を気にしたり、否定的なイメージから人を見たりするのは、毎日を楽しむために邪魔だな、と気づいた」
生きづらい社会の要因についても冷静に分析する。例えば、ネットやワイドショーで振りかざされる正論。「正論って、邪論の排除だから怖さを感じるんですよね。『多様性を大事にしよう』って声をよく聞くわりに、同調圧力が強まっている気がするんです」
キューバ旅行についてつづったエッセーで今年、旅に関わる優れた著作に贈られる斎藤茂太賞を受賞した。執筆活動はこれからも続けるつもりだ。実は純文学、特に藤沢周さんの短編にひかれているという。
「エッセーに描かれている自分は、恥ずかしいからちょっとよそ行き。小説のほうが自分を出せそうな気がする。『創作です』って言えるから。打算的で欲深い自分を書きたいな」(宮田裕介)=朝日新聞2018年9月5日掲載
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