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新書ピックアップ(朝日新聞2018年9月22日掲載)

『国語教育の危機』

 大学入試のセンター試験が2020年1月の実施を最後に廃止され、翌21年から「大学入学共通テスト」が実施される。最大の改変は記述式の問題が加わることだ。麻布高教諭を経て現在は日大教授の著者が、すでに実施されたプレテストをつぶさに分析し、問題点を指摘する。「新学習指導要領」で思考力・判断力・表現力は育てられるのか。基礎的な読解力も問題視されるなか、国語教育の未来に警鐘を鳴らす。
★紅野謙介著 ちくま新書・950円

『徳政令』

 借金は返すべき、とは現代の常識。古代では文字どおり徳のある政治の意味だった「徳政」が、鎌倉時代に債務を帳消しにすることに。自然災害にあった農民らへの救済策として合理性を備えていた時期もあるが、応仁の乱などをへて、戦費調達のための代償へと姿を変え、忌み嫌われるものとなっていく。貸借の前提にあった信頼関係が失われ、富の不均衡の扱い方が転換し、近世の集権が生み出されるまでをたどる。
早島大祐  講談社現代新書・950円

『死と生』

 人の普遍的な問いである生と死の意味に向き合う論考集。死とは何か。死はなぜ怖いのか。トルストイが到達した死生観や、「輪廻(りんね)」「あの世」の考察のほか、自殺した西部邁氏の「死んだら何もない」という思いに理解を示しつつ、それでも死を考えながら生き続けることの価値を求めていく。
★佐伯啓思著 新潮新書・821円

ネットカルマ

 花園大教授で仏教哲学や仏教史が専門の著者は、インターネットを便利に利用して生きていくということは、別の見方をすれば〈ネットに「見られながら」暮らす〉ことを意味するという。ネットには、人の心に深い傷を与え、日々を苦痛の海に変えてしまう作用もある。ネットの業(ごう)(カルマ)は誰の上にも降りかかり、逃れることが困難だが、その苦しみから抜け出す道は、ブッダの教えの中にある、という。
佐々木閑(しずか)著 角川新書・864円