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「見えない違い 私はアスペルガー」 変わり者?主人公の感じ方を追体験

『見えない違い 私はアスペルガー』 原作J・ダシェ 作画M・カロリーヌ

 他人には、この世界はどんなふうに見え、どんなふうに感じられているのか。もしかしたら私とは違ったものに感じられているかもしれない。違うリアリティを生きているのかもしれない。そんなことが頭をよぎっても、感覚は身代わりできないから、本当のところはわからない。
 そんな壁を越え、他人の感じ方を追体験する上で、まんがというメディアは大きな力を発揮するのだろう。本書を読んでそんなことを思った。
 主人公は27歳の女性。ありのままに生きようとしても、日常的に多くの困難にぶつかり苦しむが、本人にはその理由がわからない。周囲からは変わり者と思われ、多くのトラブルに遭遇するうち、やがて自分がアスペルガー症候群と呼ばれる特徴に合致することを知り、その現実に向き合っていく。そんな原作者自身の経験が、まんがの独特な描線やタッチ、色彩などを通じてドラマ化されている。
 実写のドラマだったら、カメラが見えるがままに世界を映すが、まんがは、感じるがままに世界を描き出す。まんが表現の特徴がテーマとぴったりかみ合い、主人公が感じる世界が読者に印象深く刻まれ、心に残る。広く多くの方におすすめしたい一冊だ。=朝日新聞2018年9月22日掲載