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体まるごと愛おしい感覚に浸かった 橋本愛さん「ここは退屈迎えに来て」に主演

文:岩本恵美、写真:有村蓮

 山内マリコのデビュー作『ここは退屈迎えに来て』は、ありふれた地方都市を舞台に、そこで暮らす女の子たちの“いつもの日々”を描いた短編連作小説だ。小説で描かれる彼女たちの日常は時間も場所もちょっとずつ異なるが、共通するのは「椎名くん」という存在。男女問わず憧れの的である「椎名くん」を軸に、それぞれの日常が交差していく。まだ何者でもない若者たちが“ここではないどこか”を求めてもがく姿には、誰しもが共感をおぼえるはずだ。
 そんな共感度大な小説を廣木隆一監督がロードムービーに仕立てて映画化。登場人物の一人「私」を演じる主演の橋本愛さんに、原作を初めて読んだときのことや「私」のこと、「東京」と「地元」への思いなどについて話を聞いた。

タイトルに呼ばれた気がした

 「タイトルの詩的な響きが好きで、何だか呼ばれている感じがしたんです。これは読まなきゃ、という感じでした」

 10代のころに原作を読んだという橋本さんに、なぜこの本を手にしたのか聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 「だからといって、当時『退屈だな』『誰か迎えに来て』と思っていたわけではないんですよね。でも、もしかしたら、潜在意識の奥底で、どこか抜け出したいという思いが自分にもあったのかもしれません」

 「ここは退屈迎えに来て」――。そんな呼びかけに呼応するように読んだ本の読後感は、「愛おしい」という気持ちだったという。

 「すごく痛いし、やりきれないし、自分が見たくないものに直面しちゃうんですけども、なぜだか総じて『愛おしい』という気持ちになったんです。その感覚は映画でも同じだったんですけど、映画を見る場所特有の音響や閉鎖空間という特別感もあって、愛おしさが増幅してやってきたんですよね。映画を見終わった後は、360度自分の体ごと『愛おしい』という感覚に浸かっている感じでした」

ふわふわしているようで、強い「私」

 橋本さんが演じるのは、東京に憧れを抱いて上京したものの、Uターンして地元でフリーライターをしている「私」だ。

©2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

 「『私』は全てに対してけっこう曖昧なんです。『椎名くん』への気持ちもすごく固執しているわけではないんだけど、全く興味がないわけでもない。やっぱり『会う』ってなったら、多少ときめく存在ではあるし。それは東京や地元に対しても同じで、どちらにも愛情が持てずにいるんです。だから、『私』を演じていて、すごく宙に浮いたような、ふわふわした感覚をおぼえました」

 そんな曖昧な「私」だが、「基本的には強い人だ」と橋本さんは考える。

 「撮影初日に監督と、『私』は『迎えに来て』っていう人じゃないから、という話をしました。もっと能動的で、自分で動ける人。東京で挫折して地元に帰ってきたら、そのままくすぶって引きこもったり、仕事しないでフラフラしたりする選択肢もあると思うんです。でも、彼女はすぐに働いている。それがある種、彼女のプライドだったのかもしれないですね。そんな話を監督としながら、彼女のイメージは整っていきました」

 意外なことに、「私」を演じていて楽しかったのは、リア充の「椎名くん」ではなく、「私」と同じく「椎名くん」に憧れていた側の「新保くん」とのシーンだったそう。

 「『新保くん』に、『椎名くん』の彼女に間違われて喜ぶ場面があるんです。その後の乱痴気騒ぎみたいなものもすごくキラキラしていてキレイですけど、『私』の心の中の一番のときめきって、ここだったのかなと思います。すごく青春を楽しんでいる『椎名くん』を見ながら、ちょっと落ちぶれている二人で幻想に入っていく感じは楽しかったし、忘れられないですね」

©2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

痛いのに、なぞりにいってしまうところに共感

 かつての「私」同様、地方から上京して活動している橋本さん。「私」と重なる部分はなかったのだろうか。

 「『東京』と『地元』の心の距離感的なところは、彼女と私は真逆ですね。彼女は『東京』に憧れていたけれども、私は大嫌いな場所に連れてこられた感じで(笑)。いまは変わって、フラットに『東京』のよさも『地元』のよさも発見できるようになりましたけどね。どちらに行っても、ちゃんと自分を楽しませるための術をちょっとずつ習得していってるなという感じはします。
 でも、一つ『私』に共感できたのは、誰しもそうなのかもしれないですけど、やっぱり過ぎ去ってしまったものへの哀愁みたいなものを持っているところ。映画で『私』が母校に立ち寄ってちょっと複雑な気持ちになっていたように、私も母校の小学校や中学校の周りを歩いては『はぁ~』って思います。痛いのになぞりに行くんですよね。ちょっとタチの悪いところなんですけど、その痛さ、固執はしていなくても過ぎ去ってしまったものに対する切なさみたいなものは共有できたかなと思います」

原作と作家さんを大事にしたい

 「ここは退屈迎えに来て」だけでなく、「告白」や「桐島、部活やめるってよ」「寄生獣」など、原作のある作品に数多く出演してきた橋本さんは、小説であれ、マンガであれ、必ず原作本を読むという。

 「作家さんがどういう気持ちで何をどう描いているのか、そこから何を汲み取って映画にしたいのかなど、興味があるんですよね。でも、一番の理由は、本が好きだからだと思います。本が好きだからこそ、本の偉大さも知っているから、原作や作家さんのことを大事にしたいと思うんです」