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口は悪いしやりたい放題! でもみんなの愛されキャラ やぎたみこさん「ほげちゃん」

文:谷口絵美、写真:斉藤順子

モデルは友人からプレゼントされたぬいぐるみ

――青い体に、どこか間の抜けたユーモラスな風貌。癒し系のぬいぐるみは、実は持ち主への不満を爆発させる最凶キャラだった!? 『ほげちゃん』は、ぬいぐるみのほげちゃんが小さなゆうちゃんの家にやってきてきたところから物語が始まる。ごはんのときも遊ぶときも、ゆうちゃんはいつもほげちゃんと一緒。家族にすっかり溶け込む様子がほのぼのムードで描かれていくかと思いきや……。絵本らしからぬジェットコースター展開は、作者自身も「この絵本、出して大丈夫かな」と不安になるほどだったとか。一体どこからこんなユニークなキャラクターを思いついたのだろうか。

 ほげちゃんは、うちにあるぬいぐるみがモデルです。友人が私の誕生日プレゼントにくれたものなんですが、それがだいぶ大人になってからのことで。「何でこの年齢で、ぬいぐるみ?」という感じでした。しかも、絵本より実物のほうが強烈に変な顔なんですよ。見た目から「ほげー」って鳴きそうだなあと思って、ほげちゃんと名付けました。

 娘も息子もすでに大きくなっていましたが、とにかく家族みんなでほげちゃんをいじって遊んでいました。ソファにポンっと置いてあったり、気がつくと本の下敷きになっていたり、ドアに挟まっていたり。そこは絵本の前半に描いてあるのとほぼ同じです。行方不明になることもけっこうあって、時々思い出しては、「あ、こんなところにあった」「ひどいよねー」って。決して大切に扱っているとは言えないのだけれど、家にある他のどのぬいぐるみよりも身近な存在で、家族全員がすごく愛着を持っていました。

――実は『ほげちゃん』には、原型となる作品がある。やぎさんがまだ絵本作家としてデビューする前、通っていた絵本スクールの課題で作った同名の絵本だ。「いつも家に転がっているもので絵本を作ろう」というテーマが与えられ、やぎさんはほげちゃんを題材にすることにした。

 ほげちゃんが家の中で何かの下敷きになっていたりするとき、よく子どもたちと「今日、ほげちゃんがひどい目にあって怒ってるよ。こんなところに誰が置いたの?」みたいな話をしていたんですね。そこから、ほげちゃんはきっとひがみやすくて、性格はあんまりよくないだろうな、という設定が浮かびました(笑)。

 このときの作品は自己満足というか、ただ自分が表現したいものを形にした感じだったので、まったく子ども向けじゃありません。だから、デビュー後もこれを絵本として出すつもりはなかったんです。

やぎさんが絵本スクールで制作したオリジナル版の「ほげちゃん」。実物のほげちゃんをドアに挟んだり、踏んだりした様子を撮影した写真で構成されていて、かなりシュールだ。ちなみに足の出演は当時高校生の息子さん
やぎさんが絵本スクールで制作したオリジナル版の「ほげちゃん」。実物のほげちゃんをドアに挟んだり、踏んだりした様子を撮影した写真で構成されていて、かなりシュールだ。ちなみに足の出演は当時高校生の息子さん

「強烈な」原型を子ども向けの表現に

――しかし、ほげちゃんは思わぬところで再び表舞台に現れることになる。絵本作家になったやぎさんは、『おはぎちゃん』という作品を発表。これが好評を博したことから、間を置かずに次回作を出すことになった。そのときに「もしかして、やり方を変えたらあのほげちゃんを絵本として世に出せるかも?」と思いつく。

 ほげちゃんのキャラクターは同じですが、ゆうちゃんっていう1歳半くらいの赤ちゃんを登場させるなど、自分なりに子ども向けの表現に変えました。ラフを作って編集者さんにあれこれ意見をもらって。最初からわあ面白い!というより、じわじわくるという反応でしたね。途中で「実は原型の絵本があって」とオリジナルの作品を見せたら、「強烈ですね」と言われました(笑)。

 実はそれまでも、話の種みたいな感じで他の編集者さんにオリジナル版を見せたことはあったんです。でも、誰も「これを出版しましょう!」とは言いませんでした。

『ほげちゃん』(偕成社)より
『ほげちゃん』(偕成社)より

『ほげちゃん』の舞台は、どこか懐かしさを感じる「普通のおうち」。日本画っぽいタッチになるよう、アクリル絵の具に岩絵の具を混ぜて描いている
『ほげちゃん』の舞台は、どこか懐かしさを感じる「普通のおうち」。日本画っぽいタッチになるよう、アクリル絵の具に岩絵の具を混ぜて描いている

読者の「マイほげちゃん」がSNSに出現

――誰からも本命視されることがなかったというのが、何ともほげちゃんらしい。ところが、晴れて絵本として世に出ると、大人にも子どもにも『ほげちゃん』は大人気に。そのことにやぎさんは驚かされた。

 小さい子はゆうちゃんのすることを真似て、自分のぬいぐるみを連れ歩いたり、かじって「あじみ」をしてみたり。で、ちょっと大きくなって小学生くらいになると、女の子は「ほげちゃん、こんなことされてかわいそう」と母性本能がくすぐられるみたいなんです。かたや男子は、「ほげちゃんいけいけ、もっとやれ!」みたいな感じ。

 大人はというと、仕事で辛い思いをしていたり、ストレスを抱えたりしている人が、「ほげちゃんが自分の代わりにやりたい放題暴れてくれて、癒される」と言うんですよ。絵本の巻末にほげちゃんの型紙をつけたら、みなさん「マイほげちゃん」を作って、ツイッターやインスタグラムにあげてくれたりして。いろんな年代の人に、いろんな楽しみ方をされているのが本当に不思議な感じです。

――やぎさんが絵本を描くときに必ず行っているのが、模型作りだ。『ほげちゃん』はゆうちゃんの家で繰り広げられる物語だが、やぎさんは間取り図を描いて家具や小物の配置を決め、それを基に段ボールで精巧な模型を作った。居間から台所へ向かうほげちゃんの動線も、絵本として読んだときに自然な移動の方向になるよう模型で検証。ほげちゃんがケチャップを浴びてしまう山場のシーンも、実際にケチャップのボトルをつぶしたらどういうふうに飛び散るかを動画で撮影して確かめてから、絵にしたという。

 絵本って、一つの部屋でもいろんな角度から描かないといけないんですよね。テレビもティッシュの箱も、違う角度になってもそこに絶対ないといけないもの。だから手に取って見られるものがあるといいなあと思ったのが模型を作るようになったきっかけです。

 やっぱり、ほげちゃん自身が不思議な存在だから、周りを取り囲むものはリアルじゃないと、ほげちゃんの「変さ」が伝わらないと思うんです。リアリティのある空間を描くことで、読んだ子どもが、「私の家にあるあのぬいぐるみも、こんなことを思っているかも?」って想像してくれるかもしれない。

シリーズ3作目『ほげちゃんとこいぬのペロ』に登場する公園の模型。「私、模型作りがとにかく楽しくて。原画展で模型を展示すると、お客さんも原画を見ないで模型の方にばかり行っちゃうんですよ」(やぎさん)
シリーズ3作目『ほげちゃんとこいぬのペロ』に登場する公園の模型。「私、模型作りがとにかく楽しくて。原画展で模型を展示すると、お客さんも原画を見ないで模型の方にばかり行っちゃうんですよ」(やぎさん)

仕事机はリビングの真ん中に鎮座。日常と仕事を分けないのがやぎさんの制作スタイルだ。窓際にはカメやミドリフグの水槽、植物などが置かれていて、視界に入ると癒やされる
仕事机はリビングの真ん中に鎮座。日常と仕事を分けないのがやぎさんの制作スタイルだ。窓際にはカメやミドリフグの水槽、植物などが置かれていて、視界に入ると癒やされる

――家族が留守のすきに、日頃のぞんざいな扱いに対するうっぷんを爆発させ、「もう~~こんな いえ、めっちゃくちゃの ぎったぎたの ばっこばこに してやる!」と、部屋中のものをひっくり返して大暴れするほげちゃん。でも最後はケチャップまみれの哀れな姿に。悪童だけど憎めないところに、大人も子どもも胸をぎゅっとつかまれる。

 横暴なところはあるけれど、本当は悪い子じゃないんですよ。シリーズの3作目ではペロっていう子犬が登場するんですが、面倒見がいいところも見せたりして。私にとっては、ほげちゃんはずっとかわいい子です。

 これから先、ほげちゃんにこんなことをさせたいっていうアイデアは、いろいろ編集者さんと話しています。今はちょうど4作目が進行中なのですが、ゆうちゃんとお母さんと一緒にお友達の家へ遊びに行くお話です。シリーズが進むにつれて、みなさんから「今度はどれだけ暴れるか」を期待されているみたいで。それはけっこう辛いですね(笑)。