今年で「週刊少年ジャンプ」(集英社)は創刊50周年を迎えた。ということは、巨匠・本宮ひろ志が『男一匹ガキ大将』を発表してからも、きっかり50年経ったことになる。本宮マンガの魅力はいくつも挙げられるが、やはり一番は「スケールのでかさ」だろう。最近のリアルなマンガを見慣れた目には非日常的な大風呂敷が新鮮で、サウナに入った後に流し込むビール大ジョッキのように痛快極まりない。
本宮は意外に多くの歴史マンガを描いている。中でも楽しいのは、細かい史実にこだわらず、無邪気な想像力から生み出した荒唐無稽なフィクションだ。代表的な作品は90年代に描いた『夢幻の如く』。本能寺で死ななかった織田信長が日本軍を率いて大陸に侵攻するという“すげえストーリー”は本宮ひろ志にしか許されない! 大陸に渡った信長は清の太祖ヌルハチを子分にし、イワン雷帝ひきいるロシア軍と対決し、ついにはヨーロッパにまで攻め上っていく。考えてみればいろいろ問題もありそうだが、ここまで気宇壮大な歴史マンガは他に例がないだろう。
昨年、古希を迎えた本宮が「グランドジャンプ」(集英社)で連載を始めた『こううんりゅうすい〈徐福〉』は、さらにその上を行く。
紀元前210年、秦の始皇帝から「不老不死の仙薬探し」という無茶ぶりをされた徐福が弥生時代の日本にやって来るところから物語は始まる。やがて徐福は富士山の麓にある不思議なパワースポットにたどり着いて不老不死(正確には2500年の寿命)を手に入れ、同じく不死となったエイセイ(始皇帝)とヤマタイ国の女王・卑弥呼とともに日本の歴史を見守ることに。
舞台は日本だけに留まらない。有り余る時間を持った徐福たちはしばしば世界を放浪し、ササン朝ペルシャやローマ帝国まで訪れる。時代考証は雑なところもあるし、「ヒキを重視しただけの尻すぼみエピソード」も多く、細部はその場の思いつきで描き進めているのがよくわかるが、小さいことを気にしてはいけない。『夢幻の如く』の空間的スケールに、時間的スケールまでプラス! 徐福が得た「2500年の寿命」とは、つまり現代までを視野に入れていることを意味する。本作は徐福の目を通して「古代から現代までの日本を描く」歴史的大作になる可能性を秘めているわけだ。
最新第4巻で描かれるのは飛鳥時代。日本では徐福の子孫に当たる(という設定の)聖徳太子や小野妹子が活躍する中、徐福一行は再び大陸を横断してヨーロッパのフランク王国に足を踏み入れる――。
21世紀まで我々読者にも残された時間はたっぷりある。ぜひライフワークとして、続けられるだけ続けてほしい!