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目指すは「うんこ絵本」の定番! 何度見ても面白い表現のさじ加減を追求 西村敏雄さん「うんこ!」

文:谷口絵美、写真:斉藤順子

文章が濃い目の味付けだから、絵はほどほどのさじ加減に

――「うんこがテーマの優れた絵本はすでにたくさんあります。その中で出すのだから、何回読んでも面白い、読み聞かせで子どもたちに笑ってもらえる絵本にしたいと思いました」。そう語るのは、『うんこ!』の絵を担当した西村敏雄さんだ。タイトルもそのものズバリなら、表紙の絵も、あのおなじみの茶色い姿を真ん中にどーん!と描くのみの潔さ。だが、メジャーすぎる題材ゆえに、「どんな絵で表現するか」を決めるまでには多くの試行錯誤があったという。

 最初にサトシンさんの文が出来上がっていて、僕に絵を、という声がかかりました。読んだ第一印象は、とにかく文章がはじけていて面白かった。うんこが犬のお尻から出てきて「すとーん、ぺちゃっ。」とか、「くっさーい!」「くっそー!」なんてダジャレもあるし。他の作家さんが書いた文に絵をつけるときは大体そうなのですが、最初に読んだ時点で何となくの印象がぱーっと映像で浮かび上がります。完成した絵は最初のインスピレーションがほぼそのままですね。

 悩んだのは表現の加減です。『うんこ!』は、はしゃぎすぎないことを意識しました。サトシンさんのテキスト自体がすごく面白いですから、絵でもその面白さを強調しすぎると、1回目に読んだときはわっと面白くても、2回目は「ああ、あれね」みたいに思われてしまいます。

 例えば料理でも、すごく特徴的で1回食べればいいかなという味もあれば、なぜかまた食べたくなる定食屋さんの味みたいなものもありますよね。料理で言うところの味付けが、絵本の場合は文章と絵の読者に与える印象の強さにあたります。『うんこ!』は、文章自体が少し濃い目の味付けなので、絵はほどほどのさじ加減がいい。それをどのくらいにするかを、じっくりと考えていきました。

画面全体を茶色い絵の具で塗りつぶした後に、それぞれのモチーフの色を塗り重ねることで重量感を表現。うんこは茶色に黒を重ねてから、アンバー(琥珀色)で着色している。ところどころに下の濃い色が見えることで、何ともいえない「質感」が

――犬のお尻の穴から道端に産み落とされた主人公のうんこ。そのそばを、ネズミ、ヘビ、ウサギと、いろんな生き物が通りかかる。最初は興味津々で近づいてくるものの、みんな臭いをかぐや、「くっさーい!」と顔をゆがめて逃げ出す。

 子どもたちって、ヘビやネズミをあんまりかわいらしいキャラクターにすると、うんこの臭いで苦しそうにしているのを見て「ヘビさんがかわいそう。うんこなんてキライ!」ってなっちゃうんですよ。主人公はあくまでうんこなので、そこにやってくる生き物たちは、悪キャラでもないけど、かといって善良そうでもないくらいがいい(笑)。臭い目にあってかわいそうなのも含めて面白いと思ってもらえるようにということを意識しました。

 僕の創作スタイルは、表現の幅を割と広く取って、少しずつおさめていくやり方です。最初はデフォルメの仕方も制限せず、はしゃいだ感じにもしてみます。臭がる生き物の後ろで稲妻が走る、みたいなオーバーな効果もつけたり、ウサギを大号泣させたりして、そこから表現の「程」を探るんです。絵を単体で見るのではなく、本として組んだときにページをめくっていくとどうなのか。面白がって作ることは大切ですが、「これ、面白いでしょう?」が読んだ人に透けて見えるのはよくないですね。

 描いている本人は思い入れが強すぎて、読んだ人がどう感じるかという距離感がつかめなくなるもの。なので一旦置いておいて他の仕事をするとか、寝る前に改めて読んでみるというように、時間を空けながら何回も見直します。そうやって突き放したような感覚で改めて向き合うと、客観的に見られるようになります。

『うんこ!』(文溪堂)より

棒かとぐろか、最後まで悩んだ主人公の形

――「何度読んでも飽きずに面白い、うんこ絵本の定番になるものを作ろう」というコンセプトは、主人公であるうんこのキャラクター造形にも大きく影響したという。実は、原画を描く直前までうんこの形は全く違うもので進んでいた。

 うんこと言えば、誰もが想像するのが茶色くて、とぐろを巻いたこの形でしょう? これはさすがに使い古されているし、少しありきたりかなと思いました。それで棒状のキャラクターを考えて、ずっとそれで進んでいたんです。ラフも完成させて、編集者さんもいいですね、と言ってくれて。でも、僕はずっと心のどこかで「これでいいのかな」とひっかかっていました。子どもたちが落書きするうんこといえばとぐろを巻いた形だし、強いイメージを持ってもらうためにはやっぱりこっちだなと。それで、最後の打ち合わせで変更したいと伝えました。

うんこのキャラクターは、最初は下にあるような縦長の形だった。表情もいろんなパターンを検討。ほんの少し目尻や口角を上げたり下げたりするだけでも、印象がだいぶ変わる

タイトルの書体が決まるまでにも多くの変遷が

 結果的に自分でもしっくりきました。表紙も、風景みたいなものがバックにあったほうがという意見も出ましたが、無地にこの形で十分うんこの絵本だと分かるし、そのほうがインパクトもあります。タイトルも最初ちょっと丸っぽい字にしてみたのですが、文字までうんこに寄せたら、逆に散漫な印象。簡潔で読みやすいものがいいということで、最終的には墨に太字のシンプルな書体に落ち着きました。

西村さんの仕事場のドアを埋め尽くしているのは、果物の段ボール箱に描かれたゆるーいキャラクターや、おみやげ品のパッケージなどの切り抜き。「デザイン的な意図が特にないような、イラストやロゴが大好きです」(西村さん)

愛用の絵筆。筆先がかなり細いものが多い

――スタンダードを追求することは、「絵は見やすく、文は読みやすく」をモットーとする西村さんの絵本作りにも通底している。

 以前はテキスタイルデザインの仕事をしていましたし、子どもの頃も家に絵本はなかったので、僕は絵本というものにそもそもあまりなじみがありませんでした。でも結婚して息子が2人できて、妻がいろんな絵本を読み聞かせをしているのを見て、「ああ、絵本って面白いな」と思ったんです。

 僕にとって一番重要なのは、大人と子どもが一緒にいて、お話や絵を見ながらスムーズにコミュニケーションがとれること。感動するとか泣けるとか大笑いできるとかは、もちろんそれに越したことはないけれど、まずは文がストレスを感じずに何回でも読めて、絵が分かりやすいものであるかどうかを考えます。ページをめくって読んでもらっている何分かの間、親と子が一緒に過ごす時間を楽しく運ぶための「道具」として、その場で一番役に立つものが作れたらいいなと思っています。