「不妊、当事者の経験」書評 不妊治療経験者の意識の変容に迫る
評者: 寺尾紗穂
/ 朝⽇新聞掲載:2018年12月15日
不妊、当事者の経験 日本におけるその変化20年
著者:竹田 恵子
出版社:洛北出版
ジャンル:妊娠・出産・育児
ISBN: 9784903127279
発売⽇: 2018/09/25
サイズ: 19cm/589p
不妊、当事者の経験 日本におけるその変化20年 [著]竹田恵子
不妊治療経験者でもある著者による本書は、時代ごとに当事者がおかれた状況の変化を追いながら彼女たちの意識の変容に迫っている。ぐっとひきつけられるのは〝「話された躊躇」と「話されなかった躊躇」〟といった小見出しに表れているように、言葉にしにくい部分があるかもしれない、という感情の繊細さへの目配りである。
社会学において、感情は「社会的につくられたもの」として証言が分析されるが、著者は、当事者の抱える躊躇を切り捨ててしまう危険性を認識し、学術書にありがちな断定から距離を保つ。HIV感染者、性的少数者、外国人、障がい者などの不妊問題に切り込んでおり、少数者の「産む権利」について、どれほど無知でいたかを突きつけられた。
集められた証言は時に似通いつつも、多様さをみせる。不安を持つ当事者にとっても、自らの状況把握や感情の整理の一助になりうる一冊ではないか。