東直子が薦める文庫この新刊!
- 『四人組がいた。』 高村薫著 文春文庫 702円
- 『随筆 本が崩れる』 草森紳一著 中公文庫 950円
- 『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』 ペーター・ヴォールレーベン著 長谷川圭訳 ハヤカワノンフィクション文庫 756円
2018年を示す漢字が「災」になったらしいが、大雪、大雨、地震など、確かにこの所「災」続きである。「生きる」というよりも、「生き延びる」ことを真剣に考えたい今、読んでおきたい本を。
(1)は、過疎化の進む典型的な山奥の寒村が舞台。この村の、元村長、元助役、郵便局長、キクエ小母(おば)さんの老人四人組は、肉体も商魂もたくましく、舌鋒(ぜっぽう)も鋭い。タヌキの化けたアイドルグループ等、シュールな要素も多分に含みつつ、クライマックスに向かうエネルギッシュな文章は、落語や講談のよう。皮肉たっぷりのユーモアに、何度も声をあげて笑ってしまった。「では、繁殖もしないし、生きる意味ももたない私らの自由に乾杯!」と四人組の一人が言い放つ一言が、痛快である。
(2)は、今にも崩れんばかりに本が積み上がっている表紙の写真が印象的だが、著者の自宅らしい。2LDKのマンションに、何万冊もの蔵書をため込み、崩れてきた本に閉じこめられて身動きができなくなる。危機的状況の中から、なぜこうなったかをじっくり念入りに思考する様には可笑(おか)しみもにじむ。昭和時代を生き抜いた博学の書き手の独自のこだわりや哲学が、文章の端々に味わえる。「空虚は、もともと東洋の最高の道徳だが、この肉も骨もなき空虚に日本人は、どう慣れ合っていくのだろう」という1999年に書かれたふとしたつぶやきのような一文に、立ち止まる。
(3)は、ドイツの森から、樹木らの生き様を伝える。一粒の種が芽生え、成長し、一本の大樹となって命を維持していくということがどんなに奇跡的で長い年月を必要とするのか。また、樹木が社会的生き物であることなど、瞠目(どうもく)すべきことが詰まっている。脳を持たない樹木にも、学習したり、伝達したり、意志を持ったりできる能力があることが、じっくりと理解できる。他の生き物との命の連鎖は、ミステリーを解読するよう。なんとなく見ていた街路樹も、「大変なんだな」と、その木肌や根をあらためて見てしまう。=朝日新聞2018年12月15日掲載