舌を嚙(か)みそうなタイトルは「異種言語学」をラテン語風にした造語らしい。よくある異世界モノでは人間と異種族が普通に会話しているが、そのお約束をひっくり返した。
ケガした教授に代わり新米言語学者が魔界をフィールドワークする。事前にワーウルフ(狼男〈おおかみおとこ〉的な種族)の言葉を学んでいたもののネイティブな発音にはついていけない。そもそも彼らは音声より匂いを重視する。〈分かる水〉と呼ばれる液状生物は振動で会話し、クラーケン(タコ型種族)は体色の変化と動作を相手によって使い分ける。
そんな肉体構造も五感の受容域も違う者たちとの意思疎通に四苦八苦しながらも彼らの言語と文化を知ろうとする研究者の調査日誌のようなスタイル。1ページ単位の記録を連ねつつ全体で大きなストーリーを紡いでいく。言葉として聞き取れない部分を■や音そのもので表記するなど、細部の工夫が説得力を生む。
身近な単語から法則を探る様子は異星人とのコミュニケーションを描いた映画「メッセージ」を彷彿(ほうふつ)させる。ほどよくコミカルで知的刺激に満ちた異文化交流譚(たん)。“郷に入っては郷に従え”式の主人公の謙虚で愚直な姿勢には見習うべき点が多数ある。=朝日新聞2018年12月15日掲載
編集部一押し!
- ひもとく 2024年ベストセラーを振り返る 昨年と同じ著者・著作が目白押し ライター・武田砂鉄さん 武田砂鉄
-
- コラム 2024年ミステリー回顧 青崎有吾「地雷グリコ」4冠、米澤穂信・白井智之ら常連も健在 朝日新聞文化部
-
- 作家の読書道 金子玲介さんの読んできた本たち 国語が苦手だった少年、伊坂幸太郎を読んで家裁調査官をめざす(前編) 瀧井朝世
- インタビュー 「ハリー・ポッターと賢者の石」日本語版出版から25 年 翻訳者・松岡佑子さんインタビュー 「ここまで惚れ込んだ作品、他にない」 坂田未希子
- オーサー・ビジット 教室編 努力はいつか報われる、だから諦めないで 小説家・藤岡陽子さん@神戸龍谷高校(兵庫) 中津海麻子
- イベント 「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」公開収録に、「ツミデミック」一穂ミチさんが登場! 現代小説×歴史小説 2人の直木賞作家が見たパンデミックとは PR by 光文社
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社