いまや日本を代表するフィギュアスケーターの宇野昌磨(21)の弟である宇野樹さん(16)は、11月に初の著書となる『兄・宇野昌磨〜弟だけが知っている、秘密の昌磨』(マガジンハウス)を出版した。12ページにわたる兄との対談のほか、幼少期の写真や一問一答形式のインタビューが載っており、父や母などに話を聞ききつつ、「兄」の半生を弟の目線で書いている。
取材の待ち合わせ場所は、名古屋市内のホテルのカフェ。樹さんがオーダーしたのは、アイスのチョコレートドリンク。「兄も僕も甘党なんです。たまにスティックシュガーを丸ごと飲んだりして」とはにかむ。取材中、チョコレートドリンクを2杯、美味しそうに飲み干した。
昌磨のことをちゃんと知ってほしい
ーーなぜお兄さんの昌磨さんについての本を書こうと思ったのですか?
兄のことをもっとちゃんと知ってほしいと思ったからです。例えば、よくファンの方からおっちょこちょいと言われる兄ですが、僕から見ると少し違うかなと思って。周りに気をつかう優しい兄なんです。
僕と兄は年が4歳離れているので、僕が幼くてあまり覚えていないことは母や父から話を聞いて、兄のことを書きました。文章を書くのはあまり得意ではないのですが、パソコンを触るのは好きなので、4カ月ぐらいで書き上げました。この本の執筆を通じて知ったこともたくさんあります。
ーー例えばどんなことですか?
浅田真央ちゃんとのエピソードです。名古屋の大須スケートリンクのスクールに通っていた昌磨がフィギュアを選んだのは、真央ちゃんの「フィギュアスケートをしようよ」という一言だったことなどは初めて知りました。
ーーこの本を書くことで、昌磨さんとの向き合い方などは変わりましたか?
特に変わりません。昌磨もこの本は読んだはずですが、特に何も感想は言ってきません。
今は兄と二人暮らしをしていますが、大抵ゲームの話ばかりしています。喧嘩もほとんどしません。ゴミ捨てなどの家事に関しては、特に分担もないし、気がついた方がやっている感じです。喧嘩はするとしても、ゲームに関することぐらいです。
ーー兄弟揃ってゲームがお好きなのですね。
はい。最近だと、僕はオンラインゲームが一番好き。自由度の高いゲームが好みです。昌磨と一緒にゲームをする時もあるし、一人でやったり、友達とやったりしています。
感覚派の僕、努力派の兄
ーー樹さんは昌磨さんのフィギュアスケートの試合をあまりご覧にならないそうですが、それはなぜですか?
特に見る理由がないからですかね。
本にも書きましたが、2016年、アメリカ東部のボストンで世界選手権が行われていたとき、僕は留学してアメリカ西部にいたので大会に行くことはなかったんですね。この大会で昌磨は、ショートプログラムで4位に位置付けたのだけれど、フリーでミスが相次いて7位という結果だった。昌磨は「僕は何をやっても駄目なんだ」と落ち込んでいたらしんですけど、そんな時に、兄の状況も何も知らない僕は、絶妙なタイミングで留学先から「楽しいよ」とLINEのメッセージを送った、なんてこともありました。
今でも兄の試合結果や大会の日などはあまり把握もしていません。
ーー「昌磨くんの弟」として見られることがすごく多いと思うんですが、それに関してはどんな気持ちなんですか?
小さい頃からなので、慣れています。
ーーお兄さんの後を追って、フィギュアスケーターになりたいとは?
思ったことはなかったです。僕にとってはアイスホッケーやグラウンドホッケーの方が楽しかった。アイスホッケーは8年やっていて、グラウンドホッケーは今5年目です。フィギュアは一人で滑るので、つまらなかったんです。
僕は「感覚派」で、昌磨は「努力派」だと思います。僕の方がどんなスポーツをやっても最初はうまいんですけど、そこで終わる。負けず嫌いの兄はやるからには一番になりたくて陰でこっそりと努力を重ねるタイプ。本当に練習が好きで負けず嫌いです。
たまに卓球をして遊ぶことがあるのですが、昌磨はどう頑張ってもスマッシュが打てなくて。悔しがって、ムキになってスマッシュを打ち続けていました。
ーー著書の中で樹さんの趣味は読書と書かれていますが、好きな本はありますか?
本も好きなんですけど、スポーツ系の漫画が特に好きですね。それこそ有名なものも読みますし、ライトノベルを漫画にしたみたいなのも読みます。
好きな作家がいるというより面白い作品をどんどん読んでいくので、家の本棚もすごいことになっています。手を広げたぐらいの大きな本棚で、300~400冊くらいは埋まっていると思います。電子書籍も好きで、携帯にもそれと同じぐらいの量が入っていて。だから漫画を買いに行っても、持っていない漫画が全然見つからないんです。
ーー本や漫画はいつ読むんですか?
携帯なら夜読んだりしますし、買った本は操作が簡単なゲームをしながら読んでいます。本の手前に置いておけば、画面に変わったことに気づくので。
ーー自分でもいつか本を出したいなという気持ちはもともとあったんですか?
本を出したいなとは思っていなかったですけど、「○○について」というタイトルの本を読んでいる間に、僕もお兄ちゃんについて書けそうだなぁと。それが現実化した感じですね。
ーー樹さんの将来の夢は何ですか?
静かに安全に暮らせたらいいなと思っています。
小さなハプニングならいいのですが、大きな問題が起こると面倒なので、ほどほどに安定した生活を送ることができればいいかなと思っています。めちゃくちゃハッピーだと、急に落ちたりするじゃないですか。具体的な職業や将来の夢はまだあんまりなくて。なれるものを少しずつ広げていって、そのうちのどれかになれればいいなと思っています。
「怪我をしないで頑張って」
ーー最後に、普段面と向かって言うことは少ないかもしれませんが、アスリートである昌磨さんにメッセージがあれば教えてください。
怪我をしないで頑張って、ということですかね。僕は怪我が多いんですよ。太ももに肉離れのくせがついてしまって、何回も怪我をしています。最近も軽い肉離れをしてしまって。怪我をしてしまうとスポーツをする時間が減ってしまうので、昌磨には怪我をせず、スケートを続けて欲しいです。
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インタビュー中も特に緊張した様子も見せず、淡々と質問に答えてくれた樹さん。飾らず、素直で、とても自然体で居られる人だと思った。昌磨さんも本の中で「(弟は)落ち着く存在。何も感じないんですね、弟から。やはり試合前だと、先生や周りの方々は緊張していて、それが伝わってくるけれど、樹からは何も感じないんです」と語るように、弟の存在は特別なのだと感じた。