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「好書好日」編集長がおすすめする2018年ミステリー小説5選

ミステリーランキング1位作品

・ミステリが読みたい!(「ハヤカワミステリマガジン」1月号 以下・早)
 「それまでの明日」(原尞、早川書房)
・本格ミステリ・ベスト10(原書房、以下・原)
 「アリバイ崩し承ります」(大山誠一郎、実業之日本社)
・ミステリーベスト10(「週刊文春」12月13日号、以下・文)
 「沈黙のパレード」(東野圭吾、文芸春秋)
・このミステリーがすごい!(宝島社 以下・宝)
 「それまでの明日」

ランキング上位を占めた主な作品

・「それまでの明日」(原尞、早川書房)早・宝:1位、文・2位

>朝日新聞読書面「売れてる本」での紹介はこちら
>原尞さんの食コラム「作家の口福」はこちら

・「ベルリンは晴れているか」(深緑野分、筑摩書房)宝・2位、文・3位、早・10位

>レビュー「時間をかけて〝相手〟を知る読書」はこちら
>直木賞作家・門井慶喜さんのレビューはこちら

・「宝島」(真藤順丈、講談社)宝・5位、文・7位

>山田風太郎賞受賞時のインタビューはこちら
>朝日新聞読書面書評はこちら

・「碆霊(はえだま)の如き祀るもの」(三津田信三、原書房)原・2位、早・3位、宝・6位、文・8位

>三津田信三さんのインタビューはこちら

・「雪の階(きざはし)」(奥泉光、中央公論新社)文・4位、早・6位、宝・7位

>朝日新聞読書面書評はこちら

・「火のないところに煙は」(芦沢央、新潮社)文・5位、早・7位、宝・10位

>芦沢央さんのインタビューはこちら
>芦沢央さんの食コラム「作家の口福」はこちら

なお、4つのランキングの海外編1位はすべて「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ、創元推理文庫、上・下)でした。

>池上冬樹さんのレビューはこちら

「好書好日」編集長の5冊

1、「ベルリンは晴れているか」
 第2次大戦直後、米ソ英仏の統治下におかれたベルリンを舞台にした歴史ミステリーです。謎解きものではあるのですが、この小説の最大の読みどころは、荒廃から復興の緒についたベルリンの街に点在する差別や偏見、すなわちヘイトを浮き彫りにしたことでしょう。ドイツ人やユダヤ人、アメリカやソ連といった民族・国の違いだけでなく、同じ民族・国民の中でも出自や立場において異なる考え方があることを主人公の少女の耳を通して私たちは聞き取ることになります。まさに今読まれるべき作品です。

2、「宝島」
 戦後沖縄の苦難を題材にしたピカレスクロマンとして評価の高い作品ですが、ミステリーとしても秀逸です。行方不明になった義賊「戦果アギヤー」のリーダーはどこにいったのかという謎が最初に提示され、親友と恋人と弟がそれぞれの立場から彼を探し出す過程の中で張られた伏線が、最後はきっちりと回収されて終わる。同時にそれは沖縄の人々の「戦果」とはなんだったのかという謎の回収にもなっています。

3、「犯罪乱歩幻想」(三津田信三、KADOKAWA)
 乱歩へのオマージュ作品は数あれど、ここまで自家薬籠中のものとした作品集はないのではないでしょうか。「屋根裏の同居者」「G坂の殺人事件」など、いかにもわかりやすいタイトルだからと言って軽く見てはいけません。5つの怪奇幻想短編それぞれに、複数の乱歩作品のネタが、渾然と溶け込んでおり、油断なりません。うるさ型の乱歩ファンも納得の短編集です。

4、「人間に向いてない」(黒澤いづみ、講談社)
 ある日突然、引きこもりやニートたちが、虫や動物など異形の姿に変貌する奇病が蔓延した社会を舞台にしたお話です。意思の疎通が図れているかどうかもわからない子供を前に、親たちは悩み戸惑い、元に戻す方法を探ります。カフカから発想したと思われる荒唐無稽な設定から、現代の親子関係を真摯に問い直す社会派奇想ミステリー。「生産性」が話題になった今年にジャストミートな作品ではないでしょうか。

>怪奇幻想ライター・朝宮運河さんが作品にふれたコラムはこちら

5、「月の炎」板倉俊之(新潮社)
 先ごろ活動を再開したお笑いコンビ・インパルスの板倉俊之さんによる4作目の小説。芸人さんの小説は多いけれども、ここまで直球のエンタメ小説を書ける人はいないのでは? 少年を主人公にしたハートウォーミングな青春小説でありながら、しっかりと伏線を張り、きちんと回収していく王道のミステリーでもあります。今年の隠れた秀作。

>板倉俊之さんインタビューはこちら