人生の多くの時間を、犬と共に過ごしてきた。『愛犬王 平岩米吉伝』をはじめ、著作の多くが犬に関するもの。日本を代表する「犬バカ」のひとりだ。
そんな著者が平成を定義すると、「犬が存在感を示し始め、人間社会の一員として認められる土台がやっとできた」時代となる。数字で確認してみると、なるほど納得できる。
国内の犬の推計飼育数は、2008(平成20)年に1310万匹でピークに達した(ペットフード協会調べ)。1987年は686万匹だったから、平成に入って20年あまりで約2倍に増えた。ちなみに昨春時点で、15歳未満の子どもの数は1553万人。犬の存在感がどれほど大きくなったか想像できよう。
しかも、これだけの数の犬たちが「家の中にあがってきて、暮らしの中に入ってきた」。昭和では、ほとんどが番犬として屋外につながれ、飼い主が顔を合わせるのは散歩の時くらいだった。「歴史上、日本人と犬の距離が最も縮まった時期。犬バカを自称し、そう呼ばれることを誇らしく感じる人が、各地で増殖していった」と分析する。
この劇的な変化を、「犬現代史」として書きとどめておきたい。しかも楽しく。本書では、01年創刊の日本犬専門誌「Shi―Ba(シーバ)」にかかわる人と犬たちを主人公に据え、それを実現した。「編集部に集う人たちはみな、相当な犬バカ。これほどふさわしい舞台はないと思う」
犬をめぐる常識は大きく変わったと実感している。マンションはペット可が当たり前になり、犬と出かけられる施設が増えた。軍隊的だったしつけのあり方は、動物行動学に基づくものになり、寿命が延びて介護が必要になるケースも出てきた。「専門知識や技術を持った犬バカたちの、もっと愛犬と楽しく過ごしたいという思いが、それぞれの業界を変えた。結果、社会の犬対応が進んだ」と話す。
社会の一員になったとはいえ「犬は底辺にいる」。それでも、犬が社会進出したことは日本社会にプラスだと指摘する。「底辺の存在を大切にしようと考えることは、誰にとっても快適で寛容な社会につながると思うのです」。次の時代も、犬と犬バカの繁栄を願いたい。(文・太田匡彦 写真・慎芝賢)=朝日新聞2019年1月12日掲載
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