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堤幸彦監督「十二人の死にたい子どもたち」インタビュー 少年少女の死にたい理由

文:永井美帆、写真:有村蓮

原作は映画的で、精神的で、現代的な作品

――原作を映画化した理由を教えて下さい。

 非常に映画的な小説だと思いました。飯沼(伸之)プロデューサーのすすめで読んだのですが、大げさな設定ではなく、ごく自然な形でミステリーが始まり、徐々に12人の背景が明らかになっていく。読むにつれ、映画的であり、精神的であり、映画にすれば非常に現代的な作品になるなと確信しました。様々な問題を引きずりながら、子どもたちが安楽死をしようとやって来る。しかも、それがインターネットを通じて集まったという点がとても現代的です。映画というのは時代の合わせ鏡でもあるわけですから、注目すべきテーマだと思い、「ぜひやらせて下さい」と言いました。

©2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会
©2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

――長編ミステリーを映像化するにあたり、意識した点、こだわった点はありますか?

 長編小説の中から何をサンプリング(抽出)するかということなんですけど、一言で言うと「自分で考えない」。物語を考えるのは脚本家、あるいはプロデューサーにゆだねて、私の役割は実際に出来上がったストーリーラインを見ながら調整していくことです。原作を読んで強く印象に残った部分があれば、「このせりふは欲しいですね」と言って加えてもらったり、それに対して脚本家から「それはちょっと言い過ぎじゃないですか?」と言われて引っ込めたり。(後輩である)大根(仁)君なんかは逆で、自分で脚本を書いて、監督もする。いろいろなやり方があると思いますけど、私の場合は過剰に自分の思い入れを反映せず、純粋に作品のおもしろさが浮かびあがってくるような映画にしたいと思っています。

 同時に、小説を映像にするのは、文章を立体化することです。セットが決まり、役者が入り、ビジュアルのイメージが確定した段階で改めて原作を読み直すと、また新たに欲しいポイントが出てくるわけですよ。そうやって今回も2、3カ所追加してもらったせりふはあります。何度も練り直して、脚本が完成したのはクランクイン直前でした。

――撮影はスムーズに進みましたか?

 原作にはミステリーの道筋が全て書いてあるわけですから、最初は「楽勝かな」くらいに思っていました。でも実はとんでもない難しさを秘めていましたね。この物語は「誰が少年を殺したのか」という謎解きも重要な柱ではあるんですけど、12人がどんな理由でここに来て、その後どうなっていくのか。それこそが物語の主人公だと言えます。そこをいかに違和感なく、起承転結をもって入れるかに非常に悩みました。

 我々のような映像作家がよくやる手法なんですけど、登場人物が個人的事情を語る時、あるいは思い出を語る時、回想シーンを入れます。そうすると説明がいらないので、楽なんです。でも今回はプロデューサーから「回想は最小限にして、会話で勝負して欲しい」と言われました。潔い判断だと思います。正直言って、12人全員分の回想を入れたい衝動に駆られましたけど、必要最小限にして、映像的な解説はなし。登場人物に語らせることで、この物語の社会性みたいなところを表現しました。

©2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会
©2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

 小説にはない、映画オリジナルな部分では、空を写したことです。12人の話の煮詰まり具合とでも言いましょうか。話し合いが沸点に達していくことを何かで表現したいと思って。物語の中盤に雨が降り出し、だんだんと雷雨が強まっていく。非常にわかりやすい演出であるんですけど、原作とはまた別の視点に立って入れることにしました。

冲方さんは「何の文句もありません」

――完成した作品を見て、冲方先生はどんな感想をおっしゃっていましたか?

 すごくお褒め頂きつつ、興奮冷めやらぬといった感じでした。実はこの作品、物語の始まりからエンディングまで順番通りに撮影しているんです。これは非常にレアケースで、普通は予算や時間の関係でロケはロケ、スタジオはスタジオでまとめて撮ることが多いです。でも、12人の心理状態をきちんと作っていくにはこのやり方が良いだろうというプロデューサーの判断でした。エンディングを撮り終わる前、冲方先生が現場にいらっしゃって、僕の特徴でもある撮影して、その場で編集するという一連の流れを見てもらったんです。「何の文句もありません」と言って頂き、安心しました。

 冲方先生というと、『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場』がむちゃくちゃおもしろくて、印象に残っています。おもしろいという表現が適切か分からないけど、冲方先生がDV容疑で逮捕され、不起訴処分になった時の体験をつづった本です。逮捕、勾留されるって人生で最大の危機的状況じゃないですか。それをちょっと楽しんでるくらいの書き方をされていて、さらに、自分への風評を自らの筆力を持ってはね返すというところに大変共感しましたし、何ておもしろい人なんだと思いました。冲方先生とは「この映画がヒットしたら、次はこんな設定で続編を作りましょう」と冗談交じりに話しています。

――ほかにどんな本を読んでいますか?

 読書は好きです。篠田節子さんとか、最近は地域振興や地元学の本なんかをよく読みますね。そして、ご多分に漏れずで恐縮なんですけど、村上春樹さんは『風の歌を聴け』からずっと、出るやいなや読んでいます。ハルキストだと思います。こういった作風を貫き通すって、なかなか難しい。音楽で言うと、サザンオールスターズとか、ムーンライダーズとか、40年も同じものを続けていくっていうのは大変なことです。それだけじゃなく、地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた「アンダーグラウンド」や旅行記など、体験型の本も出しているし、知的創造者としては日本人の中で最高峰だと思います。個人的にはノーベル賞なんかはどうでも良いと思うけど、絶対その先があるはずだから、ぜひ続けて、ずっと読ませてもらいたいです。

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