『「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本』書評 明治維新、欧米の革命の土着化
ISBN: 9784000283847
発売⽇: 2018/11/16
サイズ: 19cm/254p
「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本 [著]南塚信吾
僕はかねがね歴史に「日本史」たるものはなく、「人類全体の世界史」が一つあるだけだと思ってきた。世界は昔から分かちがたく結びついているのである。本書は「日本の中の世界史」を「発見」する全7巻シリーズの初巻として、明治維新の前後に焦点をあて世界史との連動の中で明治国家がいかにして成立したかを描いた労作である。
本書の分析手法は二つある。まず日本史に「外圧」や「外的契機」として現れるものは、世界史の時々の「傾向」が日本という場で「土着化」する事態として認識すべきだという視点であり、もう一つは、世界史のダイナミックな動きを緊張関係と緊張緩和で説明するという視点である。後者の例として、わが国の開国はペリーによる砲艦外交の結果ではなく、クリミア戦争に列強の関心が集中しているとき(ヨーロッパにおける緊張関係)、東アジアで生じた緊張緩和の時期に、すなわち、恵まれた国際関係の中で、幕府が冷静かつ慎重に開国に踏み切ったと分析するのである。
更に露仏同盟と三国同盟、「光栄ある孤立」を守る英国との鼎立関係によりヨーロッパでの均衡が成立すると(緊張緩和)、緊張はアジアへ移動して日清戦争が起こる。日清戦争後、仏独露の連携(三国干渉)で(緊張緩和)、緊張関係は中東・アフリカへ移動する。中東・アフリカの緊張が英仏協商によって沈静化されると、緊張は再びアジアに回帰して日露戦争が起こる。これは、英と仏独という列強の代理戦争だった、と読み解くのである。なかなか刺激的な分析だ。
明治維新は、欧米での「革命」の諸過程、つまり19世紀の世界史の「傾向」が「土着化」したものであり、日本の近代化においては、法律や社会制度など何をとっても日本「固有」のものはなく、それら全ては「日本の中の世界史」の現れとして存在しているのである。面白い試みだ。シリーズの続巻が待たれる。
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みなみづか・しんご 1942年生まれ。千葉大・法政大名誉教授(ハンガリー史、国際関係史)。『静かな革命』など。