「失われた、自然を読む力」書評 雲や星に加え、人の行動も観察
ISBN: 9784909355089
発売⽇: 2018/12/14
サイズ: 19cm/397p
失われた、自然を読む力 [著]トリスタン・グーリー
かつてリゾート開発の仕事をしていたとき、その土地がゴルフ場に適しているかどうかを見極めるコンサルタントと仕事をしていた。多忙な彼は、現地に視察に行く時間がない場合、葉っぱを拾ってきてそれをコピーしてファクスするよう私に指示を出した。言われた通りに何枚かの葉を送ると、しばらくして当該地の土質や日照、風、水はけ、地下水位などについての詳細なコメントが返ってくるのだった。
かっこいい!
葉っぱの、しかもファクスからそんなことまでわかるなんて。自分もそんな能力を身につけたい、そう思ったのを覚えている。
本書は探検家である著者が、地元の自然を歩き、さらにボルネオやサハラを原住民とともに歩いて身につけた土地と自然を読む技術のガイドブック。気候も植生も違う日本ではピンとこない部分もあるが、原理は変わらない。
背中を風が吹いてくる方向に向けて立ち高いところを移動する雲を見る。雲が左から右に動いていれば雨になり、右から左なら回復に向かっている。風と同じ向きなら変化なし。また飛行機雲からも天気の変化を予測できる。長い飛行機雲は天候悪化の前ぶれだ。
ほかにも鳥の鳴き声の意味、星から時間を割り出す技術、植物を見て川のありかを知る方法なども紹介されている。
ただこのような本はこれまでにもあった。本書が印象的なのは、都市や都市における人の行動も観察の対象としている点だ。屋根の形の意味、人が立ち止まる場所、カーブの外側で人の活動が活発になる理由など。内容は控えめだが、街を出て自然を見つめよ、という従来の二項対立とは異なり、街や人も観察対象ととらえているのは新鮮だ。著者の意図はわからないが、私にはそれが、仮想のネット空間に退行していく人類に「失われた、現実世界を読む力」を伝えようとしているかのように思えた。
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Tristan Gooley イングランド出身の作家・探検家。著書に『ナチュラル・ナビゲーション』など。