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浅井健一さん、奈良美智さんと絵本「ベイビーレボリューション」 かわいい奇跡を起こしたい

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

「30億のBaby」をどのように絵本に落とし込むか?

ーー「ベイビーレボリューション」が制作された経緯を教えてください。

 (子どもの本の専門店の)クレヨンハウスの方が提案してくれたんです。「Baby Revolution」は結構前の曲だけど、個人的にもすごく好きで。だからこの曲を絵本にしたいと言ってもらえたことがすごく嬉しかった。自分と同じように感じてくれてる人がいたんだって。作り始めたのは2年前かな?

ーーかなり時間がかかったんですね。

 最初に3万人のBabyが出てきて、そのBabyたちが30万人になって、さらに300万、3000万、3億と増えていく。最終的には30億のBabyになるんだけど、それを絵本としてどう落とし込めばいいのか、みたいな。そしたらある日、編集部から「奈良美智さんにお願いしたらどうだろう?」というアイデアが出てきたんです。奈良さんとはもともと仲が良いし、俺自身が単純にファンでもあるから、それは実現できたらいいなって。

「ベイビーレボリューション」(クレヨンハウス)より
「ベイビーレボリューション」(クレヨンハウス)より

ーー奈良美智さんとはどんなきっかけで知り合ったんですか?

 結構前に何かの本で対談したんですよ。奈良さんは自分の音楽を聴いてくれてて、俺も奈良さんの作品は当然知っとった。いろいろ話す中で、意外なとこで繋がってたことがわかったんですよ。奈良さんは名古屋の東端にある愛知県立芸術大学に通っとって。自分もその辺の出身なんですね。藤が丘という小さな町に貸しレコード屋さんがあって、高校の頃、ちょこちょこ遊びに行ってたんです。そしたら奈良さんはそこでバイトしてたという。奈良さんが働いてた時期と俺が行ってた時期は重なってるんで、間違いなく出会ってるんですよね。それですごい盛り上がりました。あと奈良さんは東北出身だからか、東北でやるフェスによく現れるんですよ。会うといつも2人で飲んでます(笑)。

この物語が絵本になることで人々に何をもたらすのか?

ーー実制作はどのように進んだんですか?

 奈良さんやデザイナーとのやりとりに関しては編集の吉原(美穂)さんがいろいろ進めてくれてたんです。奈良さんの絵が上がったのは、去年の夏くらい。福島の猪苗代湖畔でやった「オハラ☆ブレイク」というフェスでたまたま会ったとき、「かわいいBabyが描けたから」って言ってた(笑)。実際、最高のBabyだった。そこからは吉原さんとデザイナーさんが最高の仕事をしてくれたと思う。それこそBabyが増えていく表現とか。これは2人の努力の賜物ですよ。あと都度つどでできたものを見せてもらって、俺もアイデアを出しました。

ーー浅井さんは具体的にどんなアイデアを出したんですか?

 内緒。いろいろあるから教えられない(笑)。まあ、この曲に込めたメッセージがよりしっかりと伝わるようなアドバイスという感じ。ページごとにデザインし直してもらったり、全体の流れを変えたり。みんなでいろいろ試行錯誤しましたね。肝心なのは、この物語が表していることは何か? それが人々に何をもたらすのか? ということだから。

ーー「Baby」は愛と純粋さの象徴だと思いました。Babyが世界中をはいはいで大行進して、殺伐とした世界に愛を満たしていくという。

 この曲を書いたのはもう十何年も前だけど、世界の状態はあまり変わってないと思っていて、今も当時と変わらず世界中で悲惨なことはいっぱい起きとるし。だからこそこの絵本を出す意味があると思う。絵本ってお母さんやお父さんが子供に読み聞かせるもので 自分にも経験があるんだけど、子供は理解できないところを質問してきたりして。例えば「3万人ってどれくらい?」みたいな。そこをどう答えるかはお母さんの頑張りどころだよね。

ーー浅井さんもお子さんに絵本を読み聞かせた経験があるんですか?

 あるある。18年くらいやってきたよ。やっぱ赤ちゃんには早く寝てもらいたいし(笑)。それで散々いろんなの読んだんだけど、面白いと思う絵本が全然なかった。『ぐりとぐら』とか何が面白いのか全然わからんかった。だから自分で『Let's Study』という絵本を作ったこともあって。子供に読み聞かせるという意味で、絵本はすごく大事だと思ってる。

すべての子どもにこの物語を知ってもらいたい

ーー通常どのように作詞するんですか?

 99%、曲が先。できあがったメロディに対して、自分が何を言いたいのか探るというか、見いだしていく作業だね。昔からそれは変わらないな。

ーーBLANKEY JET CITY時代から、浅井さんの歌詞は常にビジュアル的でした。突拍子もないけど、とても独創的でカッコいい。こういった世界観の根源にあるものはなんなのでしょうか?

 それは説明できないな。自分の中に昔から備わってるものだと思う。いろんなものに受けた影響を、自分なりに表現してるだけ。

ーー映画やマンガは好きですか?

 うん。マンガ好きだよ、映画もたくさん見たよ。「小さな恋のメロディ」「真夜中のカーボーイ」「ひまわり」とか。最近のだったら「許されざる者」とか「インターステラー」も好き。そういえば、いろんな人に「ボヘミアン・ラプソディ」を薦められてしぶしぶ観に行ったけど、俺は全然好きじゃなかった(笑)。

ーー以前のインタビューでビート文学を読んでいたとお話されていましたが、最近はどんな本を読んでいますか?

 政治の本かな。この歳になると世界の動きが気になってくる。なんというか、日本って浮かれてると思うんだ。でも世界の実情は全然そんなことなくて。むしろ暗雲立ち込めてる。日本にいるとそういうことを見なくていいように仕向けられてるように感じるんだよ。「日本はいつも平和で大丈夫」みたいなさ。でも実際は全然違う。それはBLANKEY JET CITYで「イカ天」に出てた頃から思ってた。「世の中にはなんでこんなおチャラけた人間しかおらんのだろう?」って。今のテレビも変わらないけどさ。俺は当時から違うなって思ってた。その先に何もないというか。あまりにも空虚で、「本当にこれでいいのか?」ってことをずっと訴えかけたかった。今回の絵本も同じ。お母さんがこの物語を理解して、子供に読み聞かせるということに意味があると思ってる。

ーー『ベイビーレボリューション』はこれまで浅井さんが訴えかけてきた層とは違う人たちにも届きそうですね。

 そうあってほしい。俺や奈良さんがどういう人かなんてまるで意味のないことだから。大人はもちろんだけど、すべての子どもにこの物語を知ってもらいたい。そしたら奇跡が起こるかもしれない。かわいい奇跡がね(笑)。