凪良ゆうさん「汝、星のごとく」どんな本? 100万部突破、本屋大賞受賞の恋愛小説

『汝、星のごとく』は2022年8月刊行。もとは雑誌「小説現代」に2回にわたって掲載された作品です。発売後、第168回直木賞候補、第44回吉川英治文学新人賞候補、2022王様のブランチBOOK大賞、キノベス!2023第1位など話題になり、2023年に凪良さん2度目となる本屋大賞を受賞しました。
2025年7月15日に文庫版の発売が決まり、シリーズ累計100万部を突破することになりました。
『汝、星のごとく』は、網のようにまとわりつく地縁、血縁に手足をとられながら、互いへの恋情にもがく男女の、17歳からの15年間を描いた小説です。
瀬戸内の陽光あふれる小さな島。高校生、井上暁海(あきみ)の家庭は、父が島外に恋人をつくり家を出たため、島中のうわさの的となる。おしゃべりが娯楽のこの島では、母が男を追って京都から島に来た転校生の青埜櫂(あおのかい)にも、好奇のまなざしは及ぶ。2人は互いにひかれ、卒業後はともに島を出て上京することを誓う。
暁海の父の恋人、瞳子は櫂にいう。〈いざってときは誰に罵(ののし)られようが切り捨てる、もしくは誰に恨まれようが手に入れる。そういう覚悟がないと、人生はどんどん複雑になっていくわよ〉。その言葉のとおり、漫画原作者としての才を見いだされた櫂は島を出る一方、家庭に戻らぬ父にふさぎ込む母をそのままにできない暁海は島に残り、やがて2人は互いへの思いはありながら、どうしようもなくすれ違いはじめる。凪良ゆうさん「汝、星のごとく」インタビュー 生き方貫き、「正しくないこと」すがすがしく
凪良さんは朝日新聞のインタビューで「書いている私もとても苦しくて、何度も書く手が止まりました」と話し、以下のように総括しています。
結局は(人間関係を)捨てても捨てなくても、味わう痛みは同じ。どっちの痛みを選ぶか、ということでしかない…人と関わりながらも、自分でその一つ一つを選んでいく、という小説になったと思う。凪良ゆうさん「汝、星のごとく」インタビュー 生き方貫き、「正しくないこと」すがすがしく
書評家の藤田香織さんは好書好日に掲載された朝日新聞の書評で、以下のように評しています。
おそらく、多くの読者が血に縛られ、諦めることが習い性になった暁海と櫂が、どうか幸せであるようにと祈るように読み進めるだろう。けれど、それが彼らの願う幸せだとは限らないことに気付かされる。
「普通」や「あたり前」とは誰が決めるのか。自分の心を揺らす正体は何なのか。人生の「正解」はどこにあるのか。息苦しさを脱する答えがここにある。「汝、星のごとく」書評 血に縛られる人生 「正解」とは
藤田さんは、とりわけ胸の深くに刺さった一文に以下の台詞を挙げました。
自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?「汝、星のごとく」書評 血に縛られる人生 「正解」とは
凪良さんは京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。2017年に『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得ました。2019年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞しました。
『汝、星のごとく』は2023年、凪良さんにとって2回目となる本屋大賞(第20回)の大賞を受賞しました。
凪良さんは「応援してくださったすべての方が、私にとっての輝ける星です」と涙ながらにスピーチし、以下のように作品に込めたメッセージを解説しました。
人生の大きな岐路がたくさんある年代。学生から社会へ出て行き、結婚、出産、仕事のつまずきや夢や希望、いろんなものが詰まっている。選ぶことは捨てることでもある。自分の人生を自分で選んで生きていく、そういうメッセージを込めています。平凡な人というのはいないと思っていて、どんな人生でもその人なりのドラマが絶対にある。そのドラマを描いていくことが小説の一つの形だと思っているので、今作は丁寧に人物一人一人を描き出しました。本屋大賞に凪良ゆうさん「汝、星のごとく」 涙ながらに「すべての方が輝ける星」(発表会詳報)