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人事を尽くした取材で残すもの 橋本倫史さん 「ドライブイン探訪」

橋本倫史さん

 ドライブインは意識したことすらなかった。「だから気になった」のだという。そこで生きる人たちの半生を追うことで、日本の戦後が浮かび上がった。

 1982年生まれ。物心ついた頃にはファミリーレストランもファストフード店もあった。10年前、原付きバイクで九州を旅して鹿児島でドライブインに寄った。「そういえば来る途中にもあったなと」。すると、一度通った道にいくつも店が見えてきた。「朽ちかけたところも多かった。このままだと無くなってしまうと思った」。2011年から本格的な取材を始め、200近い店を巡った。17年4月から1人で「月刊ドライブイン」(全12号)を自主出版。それを元に本書をまとめた。

 取り上げたのは約20軒。峠の茶屋から10代続く店を守る夫婦、自販機を並べた店を40年続けてきた男性、今は亡き“主人”が店を始めると言い出したときは驚いたと語る女性。沖縄では米軍基地の関係者を迎え、北海道では80年代のバイクブームに乗ったミツバチ族が集まった。社会や産業の変化、一つの時代が凝縮されていた。

 説得力を与えるのは、足も頭も気持ちも尽くした取材と、あふれ出る熱意をこらえるような筆致。気になった店は電車やバスで再訪し、お酒を飲み、店主と話し、帰り際に取材を依頼、後日手紙を書いて再々訪する。「もっと効率よく出来ると思うんですけどね」。「月刊食堂」のような専門誌から地元の子どもらの作文まで調べ上げ、当時の証言やデータを盛り込んだ。

 「自分の言いたいことには興味がない。ただ、記録として残しておきたい。いつか誰かが考えられるように」。無くなっていくものに目が向く。取材対象は、那覇の公設市場や東京の谷中や千駄木に広がる。

 一見真面目で仕事も丁寧。だけど、なぜドライブインだったのか、わかったような、わからないような不思議な人だ。「親しい人は、僕を真面目だとは言わないです。たぶん、しょっちゅう飲んでる人だと思ってる」

 谷中にある行きつけの角打ちでビール片手に写真撮影。お店の人が、「この後は仕事? 帰る前に寄ってね」と手土産を掲げて見せた。(文・写真 滝沢文那)=朝日新聞2019年2月12日掲載