撮影が悩んでいた自分の逃げ場になってくれた
――映画「デッドエンドの思い出」は、傷ついた女性が見知らぬ土地、見知らぬ人たちに囲まれて次の一歩を踏み出す勇気を得るまでの、ゆったりとした時間の流れを描いた物語です。大きな事件などが起きないぶん、細かな感情の表現など演じるむずかしさはありましたか?
私はすごく自然体な、日常的な演じ方を追求するタイプですので、そういった意味ではこの映画の色、淡々と進んでいく流れというのは、自分の演技に対する感性ととても合っていたな、という風に思います。ただあれほど大きな、人に裏切られたっていう絶望を味わったことがないので、やっぱりユミの気持ちを段階的に理解していくことはむずかしかったです。
でもちょうどこの映画を撮影していたときの私もいろんな悩みがあって・・・・・・。韓国から離れたいというか、いまの日常から離れたいっていう思いがありまして、撮影がすごくいい言い訳というか、逃げ場になってくれて、作品とともに癒やされた感じです。
――どんな悩みだったのでしょうか。
本当にいろんな悩みがあったんですけど、「確信がない」ということです。これからの自分に対して確信もなくて、人との関係とかもいろんな悩みがあって、その時は家族と一緒に住んでいたので、離れてみたいっていう思いがありました。今は一人暮らしをしてるんですけれど、この作品を通して、またその一人暮らしを通して家族のあたたかさ、大切さを改めて感じています。
――スヨンさんは2017年秋に「少女時代」として長年所属していたSMエンタテインメントから離れましたが、「確信がない」というのはそのこととも関係しているのでしょうか・・・・・・。
やっぱり子どもの時から成長してきたマネジメント会社を変えた時期でしたので、10年以上一緒にやってきた人たちとの別れがすごく、なんて言うのか・・・・・・ターニングポイントではありました。でも本当に慣れた場所から離れてみたい、っていう希望があったんです。
――今作で映画の主演に初挑戦されましたが、よしもとばななさんは知っていましたか?
よしもとばなな先生は韓国で一番有名な日本の作家さんだと思います。村上春樹さんと、よしもとばななさんと、江國香織さんはすごく人気です。本屋さんにもふつうに本があります。
読書は好きなんですけど、1年間に読める本の数はそんなに多くなくて、『デッドエンドの思い出』も監督に「読んでほしいです」って言われて読みました。「この原作通りにいく予定です」っていう意見を聞いて出演を決めたんですけど、その理由は何かこう、激しい物語ではないんですけど、内容に込められたメッセージにすごく共感して、心に響くものがあって。こういう現実的な、リアルな感情の流れを演じられることがラッキーだなと思ったんです。
つらい経験を、つらい場所で、ゆっくり克服していく
――作品のどんなところに共感したのでしょうか。
(映画の主人公の)ユミは、家に帰ってすぐに日常に戻ることをせずに、あえてつらい場所に、今回で言えば名古屋にとどまりますよね。例えばつらいことが起こったときに、すごく自分を忙しくして忘れよう、っていうタイプの人もいると思うんですけど、今回の役の場合は今、自分になにが起こったかっていうのを最初パッと実感できないので、それを全部ひとつひとつ思い出しながらゆっくりとゆっくりと、修行しているみたいに自分と向き合いながら克服していく。そこがすごく共感できるな、って思ったポイントです。
私の中ではそれが一番いい快復の仕方なんじゃないかな、って個人的に思うんです。お母さんのことを考えても、自分が傷ついたまま、傷だらけの自分をお母さんに見せるよりは、ちょっと自分で克服して、ある程度落ち着いた姿をお母さんに見せたいんだろうな、っていうことも思いました。
そういう周りを見る余裕ができたときに、本当に大切な人は誰かっていうことに気づくこともあると思うんです。また次に、こういう困難とか試練があったときに、本当に大切な人は誰なのか、本当に自分を思ってくれる人は誰なのかっていうことを思い出すようになるんじゃないかな、ということを思いました。
今の時代で傷ついている人、単純な男女の別れだけではなくて、いろいろなことで傷ついた人が観て、また一歩踏み出すことができるような勇気をくれる映画だと思いますし、私もこの作品を通して価値観がちょっと変わったので、人生で一番大事で重要なものがなにか、という質問を自分に問いかける機会になったらいいなと思います。
成長してまた「少女時代」として集まりたい
――韓国ではすでに多くのドラマに出演されていますが、歌手として活躍してきたスヨンさんがお芝居に興味をもったきっかけを教えてください。
私はまず2002年に「ASAYAN」という番組で12歳の時に日本でデビューしました。「少女時代」が2007年で、正式なデビューを待っていたこの間に「ちょっともう可能性がないのかな」と思ってすでに俳優の準備をしていたんです。でも少女時代というグループが結成されて、その時からはグループ活動に集中しつつ、大学に行って演技を専攻していました。
興味をもったきっかけはたぶん、練習生の時にトレーニングしたときの楽しさだと思いますけど、経験を増やしていくにつれて楽しいだけではなく、つらいなと思うこともあるし、まだ分からないなと思うこともあります。すごく経験しても習っても分からない未知の世界なので、それが楽しさにつながっていると思います。「もっと知りたい、もっと知りたい」という欲求につながっていると思います。
――今後もお芝居に力を入れていく予定ですか?
もちろんお芝居は一番楽しいです。その理由は、まだ高いレベルではないから学んでいくことが楽しい、と言えます。でも私の原点といえば少女時代です。今回の映画の舞台である名古屋もツアーの最後によく来ていて、本当にメンバーはひつまぶしが大好きなのでたくさん食べて、踊りながら「ひつまぶしが出てきそう」っていうような言葉を言っていたことを思い出して(笑)、なつかしい気持ちになりました。どうやったらもっといい環境、もっとベストな形でまた集まることができるかなあ、といつもお互いに悩んでいます。
やっぱり今は個人活動に集中している時期なので、もう1回集まるときにはお互いの場所で、キャリアアップして成長した姿で集まりたいな、っていう風に思っています。私の場合はいま演技をがんばっているんですけれども、原点は音楽だと思っていて、ソロ活動も少女時代の活動も今後考えているので、そういう場でみなさんに感謝の気持ちをお返ししたいと思っています。