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女子柔道部の青春! 村岡ユウ「もういっぽん!」(第99回)

 先日、ある出版業界のパーティーでアラサーとおぼしき女性が20代の後輩たちを前にこんな話をしていたらしい。

 「谷亮子はスゴい人気だったんだよ。『YAWARA!』っていうマンガにもなったくらいなんだから」

 いやいやいやいや、そうじゃないだろ! 言うまでもなく、『YAWARA!』とは1986年に始まった大御所・浦沢直樹の出世作。幼いころから祖父・滋悟郎の英才教育を受けた柔道の天才少女・猪熊柔(やわら)の活躍を描いた「フィクション」だ。いかにも80年代らしいポップな柔道マンガで、アニメ化もされて少女たちの間に空前の柔道ブームを巻き起こした。
 同じ「最軽量クラス(48キロ級)で小柄な柔道の天才少女」であることから、谷亮子選手(旧姓・田村)が「ヤワラちゃん」と呼ばれるようになっただけのこと。ソウル、バルセロナでオリンピック2連覇を果たした柔と同じく、谷亮子もシドニー、アテネで同じ偉業を成し遂げたが、ルックスは似ても似つかない。もっとも考えてみれば、来年還暦を迎える浦沢直樹が20代のとき描いた作品のわけで、平成生まれにピンと来ないのも無理はないのかもしれないなぁ。

 昨年から「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で同じ女子柔道マンガ『もういっぽん!』(村岡ユウ)が連載されている。
 いつも前向きで元気いっぱいの少女・園田未知(みち)は柔道一色の中学時代を過ごしたが、高校では女子高生らしい青春を謳歌する予定だった。ところが「一本」の気持ちよさが忘れられず、高校でも柔道を続けることに。中学でも一緒に柔道をしてきた滝川早苗(さなえ)、とてもシャイなのに中学時代に全国大会にも出場した氷浦永遠(とわ)とともに、1年生3人だけで柔道部としての活動を始める。
 同じ48キロ級というだけで、未知は柔や谷亮子のような天才少女にはほど遠く、柔道選手としての実力はごく平凡。作品としては『柔道部物語』(小林まこと)や『あさひなぐ』(こざき亜衣)のようなリアルで等身大の「部活群像劇」となっている。未知たちが通う青葉西高は女子校ではないのだが、今月発売された第1巻の時点では名前を持つ男子生徒は一人も登場せず、恋愛の要素は一切ない。女子高生を主人公にしながらもさわやかな“王道の少年マンガ”であり、男女を問わず多くの人が楽しめるだろう。

 最後にどうでもいいツッコミをしておくと、「青葉中から青葉西高」という設定はちょっとヘンだ。「墨谷二中から墨谷高」(ちばあきお『プレイボール』)のように、「青葉西中から青葉高」が普通だと思う。