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本に救われた日々、伝えたい 藤崎彩織さん 「読書間奏文」

藤崎彩織さん=2019年2月6日 東京都渋谷区

 藤崎彩織の名を見てピンとこなくても、人気バンド「SEKAI NO OWARI」でピアノを弾くSaoriさん、と言えば多くの人が知っているはずだ。ミュージシャンと作家の二つの顔を持つ著者が、バンドの創生期や出産など自身のことを、好きな小説と重ね合わせながらエッセー「読書間奏文」にまとめた。

 「本の背表紙がいっぱい並んでいるのを見ながら、どれを読もうかなと考えている時間が好きで、家も壁一面が本棚です」。週に一度は本屋に足を運んで本を買う。色とりどりの表紙をケーキ屋のショーケースみたいに眺めて、本の手触りを楽しみたいから、「ネットで買うと損した気分になる」という。

 本にまつわる苦い思い出も書いた。小学校のクラスで仲間外れにされ、休み時間をいつも図書室で過ごしていた自分を振り返る。本の真ん中を読みながら、隠れるように泣いていた心模様がつづられている。なぜ、つらい体験をあえて書いたのかを問うてみると、「自分と同じ環境の子がたくさんいると思うから。書かなければいけないという気持ちで書いています」。というのも「本で救われたことがある」からだ。悩んだ時は本がそばにあって、冷静に考える時間をくれたり、どうしたらいいか教えてくれたりした。

 初めて書いた小説『ふたご』が直木賞候補作に選ばれ話題になったのは1年ほど前の臨月のころだった。「どうやって候補になるかも知らず、ぼうぜんとした」という。一方でバンドの物語だったので「小説なのか?」と批判もされた。だが最近親しくなった作家から「自分の人生に寄り添って書いている小説家は少なくない。気にしないで」と励まされ、ようやく素直にうれしく感じられたという。

 次の小説も少しずつ書き始めているようだ。「文章を書くことは自分にとって大切なことになっているので、音楽活動と両立しながらがんばっていきたいと思っています」

 子育てとの両立は? 「レコーディングに子連れで行くとメンバーが喜んでくれて、ボーカルの深瀬君も『いくらでも歌える』って楽しそうでした」。良き仲間に支えられている。(文・久田貴志子 写真・伊ケ崎忍)=朝日新聞2019年2月16日掲載