すごいタイトルの本だ。「しょぼい」「起業で」「生きていく」という3要素で構成されているが、どの言葉も意味が対立的で、頭の中に様々な「?」が発生する。起業って大変なものなんじゃないの? それがしょぼいってどういうこと? そんなんで生きていけるの? というように、たった12文字で読者の興味を引き、本のエッセンスを端的に表現している。本書がヒットしている理由の一端は間違いなくこのタイトルにあるだろう。
著者は大学在学中に「就職活動なんてやってられない」「満員電車に乗って会社に通うのが無理」といった理由でリサイクルショップを起業した。そこから、バーや学習塾など事業を拡大させた経験を持つ。妻子と幸せな家庭を築き、後進も育っている。借金はなし、ストレスもなし、おまけに自由になる時間もたくさんある。この誰もが羨(うらや)む状況の根底にあるのが「しょぼい起業」だ。
例えば著者はリサイクルショップを始めた当初、店舗に一人で住み、不用品を無料で提供しながら客を集め、近隣住民の御用聞きもやりつつ仕事を広げていった。行き当たりばったりの経営にも見えるが、そこには「家賃の二重払いを防ぐ」「資源を眠らせない」「活気ある店舗を演出」という確かな戦略があった。
本書で言うしょぼいとは、リスクを抱えない、身近な資源でまかなう、初期投資は不要、事業計画も必要なし、といった意味を指す。いつでも始められるし、転んでも大丈夫だし、嫌な仕事をしなくたって生きていける――。そんなメッセージが不安を和らげ、不思議なエンパワーメント効果をもたらす。フリーランスの文筆業として働く私自身、大いに勇気をもらった。
生きること自体が目的になる社会はしんどいと思う。しかし現状がそうである以上、我々はなんとか生き抜いていかねばならない。畑を耕せば生きるために必要なものがなんらか育つ。そんな真理を教えてくれる極めて現代的なサバイバルの書だ。
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イースト・プレス・1404円=4刷3万2千部。18年12月刊行。ネットで感想が拡散され、若者に広がっている。著者はユーチューバーとしても知られ、チャンネル登録者数約12万人。=朝日新聞2019年2月23日掲載
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