「まなざしが出会う場所へ」 等身大の語りが崩すボーダー
ISBN: 9784787719010
発売⽇: 2019/01/16
サイズ: 19cm/335p
まなざしが出会う場所へ 越境する写真家として生きる [著]渋谷敦志
帯には「アフリカ、アジア 東日本大震災後の福島へ フォトジャーナリストが自らに問うルポルタージュ」と書いてある。問題意識がやたら大きい人って真面目すぎて自分のことが見えてないから苦手なんだよ、と決めつけていたが、相変わらず私は愚かだった。
第一章の導入が全編にわたり利いている。高校時代『地雷を踏んだらサヨウナラ』を読んで写真家になると決意した大阪生まれの著者は、大学1年生で阪神淡路大震災を経験する。将来写真家になるならと、被災地にカメラを持って赴くが、現地の様子と懸命に生きる人々を見て、写真よりも他にやるべきことがあるのではないかと気づく。憧れだけで興味本位に現地に行ったことを「おのれの不遜さにはもはや嫌悪しか感じなかった」と振り返り、それ以降うしろめたさを抱えて生きていくことになる。私と同世代の、当たり前の感覚の持ち主だった。
しかし彼は梅田の百貨店で行われていたサルガドの写真展に、パラダイムシフトに近い衝撃を受ける。写真は自己表現の手段ではなく「自分の外に広がる未知の世界をそこに生きる人と共に経験し考える哲学のようなもの」。そこで日雇い労働者の集まる大阪西成の釜ケ崎を熱心に訪れ、ホームとはなにか、精神的なよりどころなのか、実際の住居なのか、実はそこがボーダーレスになっていると気付く。その後国境なき医師団の活動に携わるようになる。聖人君子でも成績優秀でもなかった著者が「自分」を語るから等身大の問題として届く。彼が見たもの感じたことは地続きの問題として、読者と著者のボーダーさえも崩していく。
世界は「国」というボーダーではなく、さまざまな問題を「人類」という単位で解決しなくてはいけない時期に入っている。理想論ではなく現実論として。にもかかわらずボーダーを引きたがる人たちの存在が、新たな不条理を生んでいく構造にも気づかされる。
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しぶや・あつし 1975年生まれ。写真家、フォトジャーナリスト。写真集『回帰するブラジル』など。