- 奇想の系譜 新版[著]辻惟雄
- 奇想の発見 ある美術史家の回想[著]辻惟雄
- 日本美術史[監修]山下裕二・高岸輝
- 未来の国宝 MY国宝[著]山下裕二
①「奇想の系譜」は1970年出版。当時ほとんど日本美術史の研究から忘れられていた江戸時代の画家6人、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳を、一般読者向けに紹介しています。
「半世紀も前に出版された本ですが、江戸時代の絵画史を書き換える役割を果たした画期的な内容です。辻先生が半世紀前、この「奇想の系譜」という時限爆弾を仕掛け、この本に触発された若手研究者が研究を続け、2000年の若冲展を機に、現在の「江戸絵画ブーム」として爆発したといえるでしょう。一方、出版されたばかりの新版は、オールカラーになって良い図版で見られます。特に、最新の岩佐又兵衛研究などを反映した、辻先生自身の書き下ろしが加わっています。江戸時代の絵画を知る上で、有用です」
②「奇想の発見 ある美術史家の回想」は、辻さんの自伝。学生時代は画家を目指した辻さんが、美術史家の道を選び、研究を続けていく姿を、書きためた日記などを元に紡ぎます。「奇想の系譜」の出発点となった、岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」との出会いも描かれます。
「辻先生は、学術論文もすばらしいけど、軽妙な文章が実に得意な方。引っ越しを繰り返したわりには学生時代の日記も残されていて、それが自伝の記述に生きています。しょっちゅう忘れ物するのに物持ちはいい(笑)。アメリカの実業家ジョー・プライスさんが伊藤若冲の絵を買って、その絵がアメリカに渡る直前に辻先生が借りてきたというエピソードなど、辻先生ならではの話もふんだんです。僕も含めて、現在活躍する美術史家もたくさん登場するので、日本の美術史界の青春を感じます」
③「日本美術史」は、たくさんの図版を用いて、縄文時代から現代まで、日本美術の通史を学べる一冊。
「『奇想の系譜』の影響を受け、江戸時代の絵画に多くのページを割いているの最新の概説書です。『奇想の系譜』出版当時の概説書は、円山応挙に何ページも割いていますが、伊藤若冲の名前はちょろっと出てくる程度で、曾我蕭白なんて名前すら出てきません。『奇想の系譜』以後、江戸時代絵画史は大きく書き換えられています。江戸時代以前も分かりやすく解説しているので、まじめに美術史を勉強したい方におすすめしたいです」
④「未来の国宝 MY国宝」は、『週刊ニッポンの国宝100』(小学館)の連載50回に加筆し、まとめたもの。
「国宝のウィークリーブックなのに、国宝ではない作品を毎回取り上げたエッセーです(笑)。MY国宝は、現実には国宝指定にならないだろうけど、僕にとっては国宝級の作品。みうらじゅん的に言えば『ボク宝(ほう)』です。連載1回目に、室町時代の『日月山水図屛風』(金剛寺蔵)を紹介しましたが、連載終了時に本当に国宝になりました。もちろん、『奇想の系譜』の画家たちもたくさん登場します。将来的に国宝に格上げになるだろうという作品も含まれています。合わせて読めば、未来の展望が見えてくると思います」
山下さんは展覧会の狙いについて、こう語ります。「『奇想の系譜』は出版から半世紀。若冲はもう人気ナンバーワンの画家といっても過言ではありませんが、今回の展覧会では、『若冲だけじゃないぞ』と伝えたい。辻先生のライフワークである岩佐又兵衛はもちろん、白隠慧鶴、鈴木其一の2人も紹介していますので、江戸時代の絵画をより深く味わって下さい」
編集部のおすすめ
洛中洛外図・舟木本を読む[著]黒田日出男
岩佐又兵衛筆の国宝「洛中洛外図屛風(舟木本)」を読み解いた一冊です。著者は絵画が持つ意味を、文献などから読み解く歴史学者。描かれた場面を一つ一つ検証していきます。たとえば、能舞台で演じられている演目を再検討するなど、その視線はとても細かく、圧倒されます。(洛中洛外図屛風<舟木本>は3月10日までの展示です)