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幕末を駆ける青年医師! 村上もとか「侠医冬馬」(第100回)

 2010年に始まり、月イチで続けてきた本コラムもついに100回目を迎えた。めでたい。お読みいただいたすべての方たちに感謝いたします!

 記念すべき100回目ということで、今回はビッグなマンガ家の作品を取り上げよう。まずは大物中の大物、「マンガの神様」こと手塚治虫の『陽だまりの樹』だ。1981年から86年まで「ビッグコミック」(小学館)で連載された大作であり、手塚晩年の代表作といってもいいだろう。連載中に小学館漫画賞を受賞し、2012年にはNHKでテレビドラマ化もされた。クオリティーもさることながら、自身の曾祖父である手塚良庵(後の良仙)を主人公の一人に起用した点でも異彩を放っている。
 幕末の蘭方医だった良庵は江戸小石川に生まれた。30歳を前に蘭学者・緒方洪庵の適塾に入門し、安政2年(1855年)から4年まで大坂で暮らしている。もう一人の主人公である生真面目な武士・伊武谷万二郎(架空の人物)と対照的に、女好きでイキな江戸前の人物として描かれる。

 こちらは現役の大物、2011年に『JIN-仁-』で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した村上もとかが昨年から「グランドジャンプ」(集英社)で連載している『侠医冬馬(きょういとうま)』(共同作画かわのいちろう)は、同じく「幕末の医師」を主人公にした作品だ。
 松崎冬馬は北海道・松前藩医の長男。まだ10代の青年だが、その長身と剣の腕前から「天狗」とあだ名される。もともと漢方の合水堂(華岡塾)の医学生として大坂にやって来たが、やがて福澤諭吉と出会って適塾にも入門。漢方と蘭方、東西両方の最先端医術を学ぶ。合水堂と適塾はライバルだが、橋本左内のようにその両方で学んだ者も実際にいたらしい。
 大ヒットした『JIN-仁-』が「現代の医師が幕末に行ったら」というSF的な物語だったのに対し、『侠医冬馬』は「新しい時代を見据えて奮闘する幕末の医師」たちの重厚な物語だ。冬馬は万二郎と同じく架空の人物だが、それ以外は細部まで実にリアルに描かれている。緒方洪庵や福澤諭吉のほか、大村益次郎や伊東玄朴も『陽だまりの樹』に続いて登場。冬馬が適塾に席を置いていたのは安政3年から4年なので、ひとまわり年上の手塚良庵とも顔を合わせていたことになる。
 安政4年、冬馬は桑田立斎ひきいる幕府の蝦夷派遣医師団に加わり、アイヌに種痘(天然痘の予防接種)をするため生まれ故郷の蝦夷地(北海道)に渡ることに。明治以前、まだ“アイヌの国”だった幕末の北海道を舞台にしたマンガは珍しく、ここからの展開は目が離せない!