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23歳にして5つのホテルを経営 龍崎翔子さんが選ぶ「はたらく」を考える本

文:鈴木遥、写真:坂下丈太郎

龍崎翔子さんが選んだ「はたらく」を考える本

  1. 『セゾン 堤清二が見た未来』(鈴木哲也、日経BP社)
  2. 『なんの変哲もない取り立てて魅力もない地方都市 それがポートランドだった』(畢 滔滔、白桃書房)
  3. 『我が家のヒミツ』(奥田英朗、集英社文庫)

「はたらく」を考える本(1)|『セゾン 堤清二が見た未来』

 無印良品や西武百貨店など、誰もが知っている有名ブランドの数々を生み出したセゾングループの代表者堤清二の軌跡を追ったノンフィクションです。彼は今でこそ当たり前になっている「ライフスタイルを売る」ということを、日本で最初に提案した人物でした。

 例えば西武百貨店ではかつて「おいしい生活」などのキャッチコピーを打ち出し、イメージ戦略を行いました。それに対して今でもホテルの多くは、寝る場所としての機能性や価格といったことに価値を置いていて、定量的な違いでしか他と競合していません。いろんなプレスリリースを見ていても、そのホテルがどういう思想でどういう体験ができるのかっていうことがぜんぜん想像できないことがすごく多いんです。

 私たちは、ホテルの世界観だったり、それに付随する過ごし方、体験をちゃんと設計して楽しんでもらえるようにつくっていて、見せ方も考えて売り出しています。大阪に新たにホテルをオープンしたときは、有名なモデルをキャスティングしてキービジュアルをつくり、プレスリリースを出しました。

 今までずっと、ホテルを単に寝る場所というより「ライフスタイルを試着する場所」というふうに定義して、ホテルのブランドイメージをつくりこんで見せていくことにフォーカスしてきましたが、この本はその漠然とした考えが言語化されています。めちゃめちゃ刺激を受けました。

「はたらく」を考える本(2)|『なんの変哲もない取り立てて魅力もない地方都市 それがポートランドだった』

 米国オレゴン州にあるポートランドは、ヒップスターカルチャーにサードウェーブコーヒーのブームにと、ニューヨークとはまた違ったかたちでの新しいトレンドを生み出して今注目を集めています。しかし元はといえば、「なんの変哲もない」田舎町でした。

 いかにしてポートランドは今の持続可能な環境都市になったのか。どのような人がどのような施策を打って、どのようなデータにもとづき何が行われたのか。この本は歴史資料にもとづき科学的に検証した論文なので、歴史や都市計画のあらましなどを知るには他のポートランドの本と比較して一番体系的で分かりやすいです。

リニューアルしたばかりの「HOTEL SHE, KYOTO」にて
リニューアルしたばかりの「HOTEL SHE, KYOTO」にて

 なんの魅力もないと思われている場所であっても、自分たちの力でそれを変えることができる。私たちが経営する「HOTEL SHE, KYOTO」は京都・東九条にあります。京都でホテルをやるなら祇園でやったらいいじゃんと思われるかもしれないけど、それだと祇園のブランド力に乗っかってるだけなんですよね。「東九条は京都じゃない」と揶揄されることも多いです。でもどんな町でもそこを開発した人がいたからこそ、人の流れができて、文化ができて、今のブランド価値になっています。

 ここ東九条が京都の人にとっての辺境だとしたら、私はこの辺境をオアシスにしたい。そこで「最果ての旅のオアシス」というコンセプトをつくって、自分たちのストーリーをもとにホテルづくりをしました。まちづくりの視点を持ちながら、この場所に人の流れをつくって文化が湧き出るような環境にして、長期的なビジョンでホテルづくりをしてきたいと思っています。

「はたらく」を考える本(3)|『我が家のヒミツ』

 『家日和』『我が家の問題』につづく奥田英朗の短編小説シリーズの最新作です。1編につき1家族、全部で6つの家族の物語が収録されています。

 登場人物たちは皆何かしらの問題を抱えていて、単純なハッピーエンドにはならないけれど、起きてしまったことを自分なりに整理して受け入れて、最後は前向きな気持ちになれている。私たちは北海道の富良野と雲井(上川町)でもホテルを経営していて、長い移動中に電車の中で読むために駅で買った本なんですけど、読んでみたら読後感がさわやかで、すごくいいなと思いました。

 仕事でぎすぎすしていたり、報われないことが多いときに、心温まる短編小説がいっぱいあると救われた気持ちになります。仕事に生かせるというよりも、仕事で行き詰って疲れてしまったりとか、ネガティブな気持ちになっている人に、インスタントな処方薬として読んでもらいたいなと思って選書しました。起業した私の友人にも薦めたい一冊です。

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