定位置争いも人生も、いつだって正念場。ブレイディみかこ的「だから、やるしかない」 中江有里
2月8日、衆議院選挙投開票日、私は新幹線で大阪へ向かっていた。
早朝から降り始めた雪の影響で、東京を数分遅れで出発した新幹線は、ときおり徐行しながら西へと向かう。この日は『日々、タイガース、時々、本 猛虎精読の記録』(徳間書店)の刊行記念トークライブ&サイン会がある。
雪景色が続く往路の車内で、沖縄・名護で行われた日本ハムファイターズとの練習試合を観始めた。
今季初の対外試合。先発は4年目の茨木秀俊投手。関ケ原の雪は心配だけど、まだ風の冷たそうな沖縄の試合の行方も心配。
さらに心配なのは「今年が正念場」と言われる選手たち。
この日1番バッターの前川右京選手は高卒5年目。昨シーズンは同じく5年目の中川勇斗選手とレフトの定位置を争った。今季から大卒で入団したルーキー立石正広選手や谷端将伍選手、岡城快生選手と同い年。チームメイトのライバルが一気に増えた。
ショートの木浪聖也選手は2023年にゴールデングラブ賞を受賞したが、昨年は小幡竜平選手、熊谷敬宥選手の台頭で出場機会を減らした。今年は新外国人キャム・ディベイニーが加入し、この日の試合でもヒットを放つ。ショート争いは一層激しくなった。
「正念場」というのは、最も肝心なところ。ここぞという大事な場面を指す。
歌舞伎・浄瑠璃などでよく聞く言葉だ。役者たちの一世一代の芝居の見せ場。
野球の「正念場」には、切実な意味も含まれる。
ここで一世一代の芝居……もとい、プレーを見せなければ後がない。
野球には台本はない。だから見せ場は運と実力が肝心。
自分の見せ場を自分で演出できなければ、次の出番はなくなってしまう。
ブレイディみかこ著『リスペクト——R・E・S・P・E・C・T』に出てくる「正念場」はある住宅。
2014年にロンドンで起きた占拠事件をモデルにした作品だ。
地方自治体の予算削減のため、ホステルを追い出されそうになるシングルマザーたちは幼い子供を抱え、行き場を失いかけていた。
やがて世代や人種を超えて連帯した彼女らは、住まいを求めて公共住宅を占拠する。
事件を取材に来た日本人の女性記者・史奈子は、彼女らを取材し、公共住宅の多くが空き家で放置されていることを知る。
最近の日本でもデモが増えてきたが、占拠とまでいかない。
翻ってロンドンのシングルマザーたちの行動力は、社会をひっくり返していく。
本書のメッセージはこうだ。
「やれるか、やるべきか、じゃない。やるしかないときがある」
きっとどんな人生にも、切羽詰まった正念場がある。
それはいつ来るかはわからない。
私だって、いつだって正念場。
どこかに所属して働いているわけじゃないし、いつ居場所を失うかわからないし。
だから、やるしかないと、いつも自分に発破をかけている。
それぞれ「正念場」で闘う選手たちの姿は、そのまま私を励ましてもくれる。
うん! 私も頑張ります! みんなも頑張って「見せ場」を頼みます。