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絵に描いた食べ物が感情を持っている感じがした 岡田よしたかさんの絵本「ちくわのわーさん」

文:日下淳子、写真:斉藤順子

ちくわの絵本が受け入れられるなんて絶対ないと思ってた

――リアルに描かれたちくわが、口笛を吹きながら歩いていき、「あのくろいふく すてきやなあ」と巻きずしの服を借り、海苔やかんぴょうを着てはしゃぐ。ページをめくるごとに「そうくるか!」と驚かされるような、奇想天外なストーリーに、子どもだけでなく大人も大笑い。岡田よしたかさんの描く食べ物たちは、まるで心があるかのように、元気に走り、歌い、なぐさめてくれる。『ちくわのわーさん』『うどんのうーやん』『こんぶのぶーさん』の食べ物シリーズは、どれもヒット作となった。

 食べ物の中でも、はじめにちくわを選んだのは、ちょっとくねくねしてて、表情つけやすいと思ったんかな。こんなん売れると思ってなかったんです。こんな広く受け入れられるなんて、絶対ないと思ってたから(笑)。

 でも、ちくわのちょっとした曲がり具合とか、かんぴょうが手のようになってるところの角度とか、これけっこう時間かけて描きましたよ。自分の思っているような表情がまだ出てないなと思うと、描き直したりもしました。

「ちくわのわーさん」(ブロンズ新社)より
「ちくわのわーさん」(ブロンズ新社)より

――ご機嫌なちくわ、おおらかなうどん……、顔も手足もない食べ物たちが、生き生きと動くストーリーは、笑いとともに人情も感じさせる。食べ物に命を吹き込む発想はどこから生まれたのか。

 もともと、絵本にするつもりでなく、一枚の絵として食べ物を描いてました。実物を見たり、スーパーのチラシを見たりして、写実的に描いた絵です。描いているうちに、だんだんユーモラスな感覚になってきましてね。写真や実物を見てもそう思わないけど、自分の絵に描いたおにぎりが、なんか感情を持っとるような、しゃべっとるようなふうに感じられたんですよ。その写実的なおにぎりとかかぼちゃとか野菜が、夜道を歩いてたり、空中を乱舞してたりする絵をいっぱい描きました。

嗚呼月面上空は今日も静寂に包まれて<br>
(「チェメレンコ王立美術アカデミーの軌跡 岡田よしたか絵画集3」より)
嗚呼月面上空は今日も静寂に包まれて
(「チェメレンコ王立美術アカデミーの軌跡 岡田よしたか絵画集3」より)

 そのうちに、これでお話できるんちゃうかな、思って。写実的な食べ物に表情をつけたらおもしろいと思ったんです。といってもリアルですから、最初は目鼻や手足をつけたほうが、かわいいし、わかりやすいかなとは思いました。ほんで、ちょこちょこと目鼻つけて2、3枚描いてみたら、やっぱしおもろないんですよ。もともと目鼻がない方に、自分は愛を感じてたんだなと気づいて、そのままいったほうがええんちゃうかと思ってこうなりました。

 それで、お弁当やおにぎりたちが電車に乗って遠足に行く話を考えて、出版社に持っていったんです。それまでは、出版社に絵本のラフを持っていっても、ボツになることが多かったんですよ。もうラフの初期の段階でボツにされて「なんや、わかってへんのちゃうか」って思って。もう作ったると思って、お弁当の話を紙芝居にして、自分で仕上げてしもうたんです。それを見せたら「これおもしろいから、作品にしよう」って言われて、やっと決まったんです。それが福音館書店の『特急おべんとう号』。

 その『特急お弁当号』を見て、食べ物の話を描きませんかってブロンズ新社さんから声をかけられて、できたのが『ちくわのわーさん』です。最初は3つ提案したんですよ。「ちくわのわーさん」「こんぶのぶーさん」「きゃべつのきゃーさん」。そしたら、ちくわの話がおもしろいからこれでいきましょ、言われてね。「こんぶのぶーさん」は後で絵本になったんだけど、最初の構想では、最後は刻まれて五目豆と一緒に料理にされちゃうっていうパターンの話でした(笑)。

まずはストーリーを作り、場面を割り付けた後、鉛筆でラフを描いていく
まずはストーリーを作り、場面を割り付けた後、鉛筆でラフを描いていく

子どもたちに絵本を読み聞かせするのは楽しい!

――全編が、テンポよく関西弁で語られる。まるで漫才のような掛け合いがあり、途中で歌が入ってくるなど、どんなふうに読み聞かせらいいかと思う人もあるだろう。岡田さんは数多くの講演をこなし、自分の足で、あちこちで読み聞かせも行っている。

 読み聞かせでは、関西弁とか気にせんでいいし、好きに読んでもろたらええんですよ。基本的に笑いのパターンが、漫才とか落語なんです。だから関西弁が一番伝わりやすいから、そうしてるだけ。関東の人がへんな関西弁で読んでも、聞いてる人がそれを受け入れなあかん(笑)。

 うどんのうーやんに出てくる歌は、河内音頭(かわちおんど)と江州音頭(ごうしゅうおんど)。関西の盆踊りは、この二本立てが定番なんですよ。大阪の小学校で読み聞かせやって、「これ知ってるやろ?」と言うと「おまつりのうたや!」って手をあげます。読み聞かせでは、書いてある歌詞の後まで続けて歌ったりします。

 いま、大阪府の小学校などを、講演してまわってます。「オーサービジット(作家が学校や幼稚園で特別講演をする大阪府の取り組み)」のオファーがあって、いろんな学校から応募があったんですけど、そこから3校園しか選ばれないんです。幼稚園や小学校から、子どもたちが絵や感想やメッセージを描いて送ってくる。それが35校園分届いたんですが、選ばれる枠が3校園だけなんです。その選ぶ作業も、自分がやらなあかんのです。その中からどうしても3つが選べない、あかん、全部行こうって。枠の3校は選びましたけど、そのほかは個人的に行きますからって。応募してくれた学校を全部まわってます。

 最初は、締め切りあるのにえらいこと言っちゃったなとは思ったんですが、行ったら行ったで、楽しい。こっちが楽しいんですよ。絵本の読み聞かせしたり、ハーモニカふいたり。ときどき、子どもに「うどんの中にどんなん入れたいか、絵を描いて」と描いてもらったり。子どもたちは喜んでくれてね。子どもらにサイン攻めにあうということもありました。

大阪のこども園で読み聞かせをする岡田さん
大阪のこども園で読み聞かせをする岡田さん

絵本は自分がおもしろく感じるものが一番

――食べ物シリーズ最新作は『さくらもちのさくらこさん』。ちょっといじけた桜餅が、他の食べ物に当たったり、ちょっと意地悪したりする。でもその様子は、ご機嫌ななめだけれど、まわりの気をひきたがっている小さい子そのもの。絵のパワーやおもしろさで惹きつけられる食べ物シリーズだが、描いている世界は、あたたかくて優しい。

 いつもはキャラクター設定をして描き始めたりしないんですが、『さくらもちのさくらこさん』は、編集さんから女の子(食べ物)で、という提案があって描き始めました。ひなあられとかみつまめとか考えたんやけど、あ、桜餅でいこかと。

 好きなとこは、壁にべたっとくっついて、ぼとっと落ちるところ。さくらこさん、自分で見てもかわいいなって思います(笑)。

 絵本を描くときは、子ども向けとか大人向けとかは考えないけど、なんか自分がおもしろく感じるものが一番、と思って描いてます。読み聞かせすると、子どもが見て笑うポイントも違ってて、それもおもしろい。そのときあんまり反応なくても、1年後に同じ本を読んでもろたら、受ける感じもまた変わってくるやろなと思ってます。だからあんまり何歳向けとか考えたことはない。

 シリアスな絵本を描いてみたいと思ったこともないな。絵本は、読んだ人が楽しかったな、おもしろかったな、そう思ってくれたらそれでいいな、と思ってます。