「〈雅楽〉の誕生」書評 近代日本の音楽史を俯瞰
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2019年04月06日
〈雅楽〉の誕生 田辺尚雄が見た大東亜の響き
著者:鈴木 聖子
出版社:春秋社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784393930359
発売⽇: 2019/01/28
サイズ: 20cm/350,4p
〈雅楽〉の誕生 田辺尚雄が見た大東亜の響き [著]鈴木聖子
田辺尚雄(1883~1984)という日本音楽研究者を軸にして、近代日本の音楽史を俯瞰する。本書にふれると、音楽研究が実は歴史、政治などと微妙に絡んでいることがわかる。
田辺は東京帝大理科大学物理学科を卒業して音楽研究に入った。少年期からバイオリンに親しみ、物理を学ぶ傍ら音楽学校に通い、和声法や作曲法を学んだ。
音楽研究者・兼常清佐(かねつね・きよすけ)との論争(ベートーベンを絶対視する兼常に対して、田辺は「邦楽排斥論」だと反論)に、田辺の音楽観が現れているようだ。
田辺には二千超の論文や記事、百冊余の著作がある。とくに雅楽研究は影響力を持ち続けている。雅楽は、古代から平安時代に皇室文化のうちに発達し、今も日本の文化的アイデンティティーを支えているという。著書にある「日本音楽発達概観表」からは、日本音楽の広がりが理解できる。
戦時期の田辺の言説も、詳細に描写している。著者の認識には安定感がある。