被災者に思いを寄せる、と言うのは簡単だが、本当に気持ちを理解しているのかと問われたら、思わず口ごもる。毎年大きな災害が報じられ記憶に焼きついていても、被災者個々の苦しみとなると容易に想像できるものではない。この作品の主人公が向き合うのは、そんな現実だ。
ロック好きの今風の高校生の主人公は、タイムスリップでなんと1945年8月6日の広島に飛んでしまう。原爆投下に遭遇し、繰り広げられる惨状。緊迫するドラマの中で、やがて彼の脳裏に浮かんできたのは、子供時代の3・11の記憶だった。言葉にならない他人の悲しみを、自分はどこまで理解できるというのか。葛藤の中で主人公は目の前の現実に立ち向かう。
思い切ったテーマだ。これを正面から描いていることにまず驚いた。軽々しくは描けないテーマだが、それを一見軽そうな商業マンガのスタイルで、あたりまえに描いている。安易に描いているのではない。しかし大上段に構えることなく、高校生の等身大の経験としてマンガを描ききっている。そのまっすぐさに、引き込まれた。制作者には苦労も多い作品だと思うが、この物語がたどりつくところを期待して最後まで見届けたい。=朝日新聞2019年4月6日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい にしおかすみこさん「ポンコツ一家 2年目」インタビュー 泣いて笑って人生は続く 朝日新聞読書面
-
- 韓国文学 SF・ホラー・心理学…広がる韓国文学の世界 書店員オススメの5冊 好書好日編集部
-
- 韓国文学 ノーベル文学賞ハン・ガンさん 今から読みたい書店員オススメの7冊 好書好日編集部
- インタビュー 楳図かずおさん追悼 異彩放った巨匠「飛べる話を描きたかった」 2009年のインタビューを初公開 伊藤和弘
- インタビュー 「モモ(絵本版)」訳者・松永美穂さんインタビュー 名作の哲学的なエッセンスを丁寧に凝縮 大和田佳世
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社