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レスリング・土性沙羅さんインタビュー(前編) 諦めない強さとは

文:熊坂麻美、写真:鈴木啓太

――土性さんが大のマンガ好きと聞いていたので、この連載に出ていただきたいとずっと思っていたんです。やっと念願が叶いました。

 そうだったんですか、ありがとうございます。マンガは私の一番の趣味です。小さかった頃は……、というか今もそうなんですけど、私はあまり活発なタイプではなくて、人前に出るのも苦手で。読書が好きだったので、小学校の休み時間はいつも図書室で本を読んでいました。それがいつのまにかマンガを読むようになって、のめり込みました。最近は、本はほとんど読まずにマンガばっかり。絵がないと読めなくなっちゃいました(笑)。

――いつのまにかハマってしまったマンガの面白さはどんなところですか。

 ページをめくればすぐ、いろんな世界に行けるところかな。冒険したり戦ったり、現実にはあり得ない世界に入り込んで体験している気分を味わえるのが楽しいです。あとは、いろんな考え方とか価値観みたいなものにも触れられるので、勉強にも刺激にもなります。

 いま一人暮らしをしていますが、400冊くらいのマンガが部屋にあります。その一部をベッドの枕元に積み重ねていて、寝る前や休みの日に読むのが幸せな時間です。

――読むだけではなくて、描いてもいるそうですね。漫画家になるのが夢だったとかですか?

 いえいえ、単純に絵を描くのが好きなんです。桜田雛さんの作品など「かわいいな」「上手だな」と思った絵を模写したり、オリジナルで少女マンガっぽい絵を描いたりしています。学生の頃は授業中、ノートの端っことかによく絵を描いていましたね。

 いまはあまり時間がないけど、休みの日に急に思い立って2時間くらい集中して描きあげることもあります。なんだろう、気分転換ですね。すごく楽しいし、リフレッシュできます。

――少女マンガだけでなく、少年マンガも好きなんですよね?

 はい。家にあるマンガは少女マンガと少年マンガが半々くらいで、いまは少年マンガを読むことが多いです。『ONE PIECE』や『約束のネバーランド』、『キングダム』とかですね。主人公たちが夢に向かって頑張る姿、困難を乗り越えていく姿にパワーをもらえるので、すごく好きです。

「ブラッククローバー」6巻、P48-49より ©田畠裕基/集英社
「ブラッククローバー」6巻、P48-49より ©田畠裕基/集英社

――今回お気に入りにあげていただいた『ブラッククローバー』もまさにそうですね。主人公のアスタが逆境をはねのけて活躍します。

 『ブラッククローバー』は魔法を使う魔道士の話ですが、アスタは魔力がありません。それで周りからバカにされたりするけど、全然めげない。魔力がない分を身体能力や地道な筋トレでカバーして、「諦めない気持ち」でどんどん強くなります。その心の強さがすごくカッコいいです。

 アスタが「魔力がなくても魔法帝になる!」「諦めないのがオレの魔法だ!」というシーンが1巻にあって、心をつかまれました。実は私もレスリングを始めた頃は、全然強くなくて成績が残せなかったんです。周りの仲間は強かったから、置いて行かれるような気持ちにもなったけど、「オリンピックで金メダルを獲る」という目標に向かって必死に練習してきました。そんな昔の自分を思い出すところもあって、アスタが頑張る姿はとても共感できます。合宿に向かう移動中に読んで、「よし、わたしもやるぞ!」と、気持ちを上げることもあります。

――アスタが所属する魔法騎士団「黒の暴牛」のメンバーは個性的ですよね。

 私は団長のヤミが好きなんです。ほかの団長と違って、すごく適当なんだけど、めちゃくちゃ強い。ワイルドな感じで顔も好みです(笑)。「今すぐ限界を超えろ」とか、言うこともカッコいいんですよ。

 「黒の暴牛」は、魔法がうまく使えない人や自分にコンプレックスを持つ人が多い、ちょっと落ちこぼれの集団です。ヤミはそんな団員たちに、いつも容赦なくむちゃブリして厳しくしながらも、彼らの可能性を信じて強くなるように導いている。団員たちもヤミを信頼して、仲間と支え合って成長していく。読むたびに、その関係性に感動しちゃいます。

――仲間と切磋琢磨して強くなるというところは、レスリングにも通じそうです。

 普段は母校の至学館大学で練習をしているのですが、部員同士すごく仲が良いんです。レスリングのことも、それ以外のことも、なんでも相談できるし、それこそマンガの話とか他愛のない会話もできて、仲間の存在に支えられているなあといつも感じます。

 みんながいて一致団結して目標に向かっているからきつい練習も乗り越えられるのであって、ひとりだったら絶対無理(笑)。試合でマットに立つときはひとりだけど、仲間がいて、応援してくれるひとがいて、「ひとりじゃない」と思えることは、とても大きな力になります。

――至学館大学の先輩で、長い間一緒に戦う仲間でもあった吉田沙保里さんは、土性さんにとってどんな存在ですか?

 沙保里さんは私がレスリングを始めたときからそばにいた、お姉ちゃんみたいな存在であり、ずっと追いかけてきた憧れの人。私が小4のとき、沙保里さんがアテネオリンピックで金メダルを獲りました。世界で活躍するその姿がカッコよくてまぶしくて、「私もああなりたい!」と心から思いました。その思いで、ここまで頑張ってこられた気がします。

 でも、偉大過ぎるから追いつくのはちょっと無理かな……(笑)。少しでも近づけるように、沙保里さんのような「攻めるレスリング」をして東京オリンピックでも金メダルを獲りたいです。

>後編「タックルに磨きをかけて東京五輪で連覇する」はこちら