キッチンタイマーがないと何もできない。かといって着の身着のままキッチンタイマーだけ持って家から放り出されてもわたしは生きていけないのだが、とにかく仕事の依頼さえしていただけるのであれば、もしかしたら友人知人に徒歩で会いに行き、一か月ぐらい居候をさせてもらって、携帯やパソコンなどを借りて一心不乱に仕事をしたら、家賃のものすごく安いアパートなら借りられるかもしれない。その時にも仕事の時間管理にはキッチンタイマーを使うだろう。
主に決まった分数をセットして仕事を始め、それが終わるとまた休憩時間の分数をセットして休む。それからまたタイマーをセットして仕事をする。これを何回か繰り返しているうちに、その日のノルマができあがる。仕事時間と休憩時間のバランスは諸説あるのだが、わたしは二十五分仕事をして十二分休むという自分に甘い設定に落ち着いた。ただその二十五分間は仕事以外はお茶を飲んでおやつを食べる以外何もしない。中断する時はストップする。
初代の黄色いのが壊れてしまった。何度か床に落としているうちにタイマー終了の音がものすごく小さくしか鳴らなくなってしまった。仕事で使うのに音が鳴るのはとても大事なので、同じ会社、同じ仕様の水色のに買い替えた。とてもきれいな色だ。「スタート」と「ストップ/リセット」のボタンの位置が前の黄色と違っているので、スタートしたつもりがリセットされていてタイマーがかかっていないことがよくあるが、それにもきっと慣れるだろう。タイマー終了の音が単なるピピピピッピピピピッという音に変わったのは少し寂しく、黄色が鳴らしてくれていた「イッツ・ア・スモールワールド」をわたしはいつまでも懐かしく思うだろう。
音が小さくなってしまった黄色は、仕事用のタイマーではなく、その名の通りのキッチンタイマーとして活躍している。どちらとも末永く付き合っていきたい。=朝日新聞2019年4月10日掲載